新入社員3 真壁唯衣
その日の夜、
毎日の日課になった電話が鳴る。
北米は今、朝の九時頃だろう。
本来なら仕事が始まる時間だ。
それなのに、
レオは毎日欠かさず電話をくれる。
以前、心配になって聞いたことがある。
「レオ、仕事は大丈夫なの?」
するとレオは即答した。
「大丈夫だ」
「俺は七時には会社にいる。
だからこの時間くらい、
ご褒美があっていい」
あまりにも真面目な声で言うものだから、
思わず笑ってしまった。
「ふふっ、ありがとう」
「本当はね、すごく嬉しいの」
少しだけ照れながら伝えると、
電話の向こうが静かになった。
「……そうか」
短い返事。
けれど、
その声はどこか機嫌が良さそうだった。
唯衣は小さく微笑む。
離れていても、こうして毎日声が聞ける。
その優しさが何より嬉しかった。
「そうだ!レオ! 」
「ワイシャツ届いたよ! 今着てるの」
唯衣は袖を摘みながら笑った。
「レオにぎゅってされてるみたいで、
すごく嬉しい」
「そうか」
電話の向こうで、
レオが少しだけ安心したように息を吐く。
「俺も唯衣の香水、至る所に掛けてる」
「えっ!? やめてよ! 恥ずかしい!」
思わず顔が熱くなる。
「俺しか匂わない。匂わせない」
「レオ……もう」
呆れながら笑うと、
電話の向こうでもレオが小さく笑っていた。
なんでもない会話、
なんでもない時間。
それなのに、とても幸せだった。
離れているからだろうか。
付き合い始めた頃みたいに、
少しだけ照れてしまう。
「レオ」
「ん?」
「大好きだよ」
思わず口から零れた。
一瞬だけ静かになり、そして――。
「俺は、唯衣の千倍愛してる」
「何それ、勝てないじゃん」
「勝負じゃない」
真面目に返ってくるその声がおかしくて、
二人で声を上げて笑った。
離れているはずなのに、
不思議と一人じゃない。
「レオ」
「ん?」
「もう一回、愛してるって言って」
電話の向こうで、レオが小さく笑う。
「何度でも伝えるよ」
「……愛してる、奥さん」
胸が熱く温かくなる。
「お前しかいらない」
「……おやすみ、唯衣」
「おやすみ、レオ」
電話が切れたあとも、
部屋にはレオのワイシャツの匂いが
すぐそばにあった。
離れているはずなのに、
不思議と一人じゃない。
わたしは安心するように目を閉じ、
深い眠りについた。




