新しい生活3
「さぁ、参りましょう」
紅葉が涼やかな顔で先頭に立つ。
「あっ!
わたしが案内する約束だったのに!」
「紅葉さん、勝負に負けたくせに!」
小雪が慌てて後を追う。
「ずるいです!」
その騒がしい様子に、
景が
「やれやれ」
と小さく息をついた。
「わたくしは、
メイド長へ帰宅のご報告をして参ります。
二人とも、
メイド長のお怒りを買わぬよう、
しっかり精進なさい」
「はい!」
二人は即座に姿勢を正し、
景へ綺麗に一礼した。
その後、
二人は唯衣を部屋まで案内してくれた。
「唯衣様、お茶にいたしましょう。
今日はカモミールティーをご用意いたしました」
紅葉が丁寧に淹れてくれる。
漂う優しい香りに、
張り詰めていた心がゆっくりとほどけていく。
その時、携帯が小さく光った。
レオからのメッセージだ。
『唯衣、もう帰りたい』
『寂しくて死ぬ』
「……レオったら」
さっき見送ったばかりだというのに。
思わず笑みがこぼれる。
「唯衣様、若様からですか?」
小雪が身を乗り出した。
「そう。もう寂しいんですって」
「それ、分かります!」
小雪が大きく頷く。
「わたしも、
唯衣様がお仕事へ行かれると思うと、
今から寂しくて寂しくて……」
「あら?」
紅葉が静かに微笑んだ。
「小雪は、唯衣様がお仕事に行かれている間の
お勉強が嫌なだけでしょう?」
「そ、それも嫌ですけど!
本当に唯衣様がいないと寂しいんです!」
すると紅葉は、
少しだけ得意そうな顔をした。
「わたくしは小雪と違って、
唯衣様を会社までお送りする役目を
頂いておりますから。
小雪より長くご一緒できます。
まだ平気です」
「ずるいです!」
小雪が頬を膨らませた。
そんな二人を見ていると、
胸の奥がじんわりと温かくなる。
「わたしが……
こうしてちゃんと立っていられるのは、
ここにいる皆さまのおかげです」
唯衣は二人をそっと見つめ、
優しく微笑んだ。
「今日も、明日も……よろしくお願いします」
「唯衣様……!」
小雪が目を潤ませる。
その横で、紅葉が静かに呟いた。
「その笑顔は反則です。
わたくしたちまで、夢中になってしまいます」
「そうです! もったいないです!」
二人の熱心な力説に、
唯衣はもう一度、小さく笑った。




