新しい生活2
「唯衣様、そろそろ屋敷へ戻りましょう」
背後から、
レオの執事である榊 景が
静かに声をかけてくれた。
空港の入口に停めてある車に乗り込む。
「お腹は減っておりませんか?」
運転席から景が穏やかに問いかける。
「料理長が、唯衣様のお好きなものを
お作りすると張り切っておりました」
「……はい。
でも、あまり減っていないんです。
食欲がなくて」
「おやおや。それはいけませんね」
景は優しく頷いた。
「喉を通りやすいものに変更するよう、
すぐに伝えておきましょう」
車が走り出し、
景がバックミラー越しにこちらを見た。
「唯衣様。
ゆっくりと慣れていけばよろしいのです」
その温かな声に、
張り詰めていた肩の力がふっと抜けた。
屋敷に着くと、
すぐに小雪さんが駆け寄ってきた。
「お帰りなさい!」
「こら、小雪!」
紅葉さんがすぐにたしなめる。
「唯衣様が驚かれるでしょう」
「……ごめんなさい」
小雪さんの長い白い兎耳が、
しゅんと寂しげに垂れ下がった。
「早く唯衣様にお会いしたくて……」
上目遣いで見つめられ、
思わず頬が緩む。
「ふふっ、ありがとう。
紅葉さん、小雪さん。ただいま戻りました」
「はいっ、唯衣様!」
わたしの言葉に、
小雪さんの耳がぴんっと嬉しそうに立った。
その横で紅葉さんが
「はぁ……」
とため息をつき、
すぐに気持ちを切り替えて丁寧に一礼する。
「唯衣様、おかえりなさいませ」
「二人とも」
景が静かに口を開いた。
「本来であれば、唯衣様ではなく
『若奥様』とお呼びすべきお方です。
唯衣様のご厚意で、
お名前呼びを許されていることを、
くれぐれも忘れないように」
ぴしゃりと言い切る景に、
小雪さんが頬を膨らませた。
「あっ、ごめんなさい。
わたしが名前で呼んでほしいって
お願いしたんです!」
わたしが慌ててフォローすると、
景は淡々と頷く。
「そのことも十分承知しております」
すると小雪さんが反論した。
「景さんだって『唯衣様』って
呼んでるじゃないですか!」
「小雪」
と景が低く返す。
「わたくしと貴女では、
お付き合いの長さが違います。
履き違えないように」
「景さんだって最近じゃないですか!
……すぐにその距離、追い抜いてみせます!」
鼻息を荒く宣言する小雪さんの横で、
紅葉さんが真剣な面持ちで一歩前に出た。
「わたくし、紅葉も。
唯衣様のためなら、
どのような敵からもお守りいたします」
そんな二人のやり取りが、
何だか可笑しくて。
わたしは思わず笑ってしまった。
「皆さまのお気持ち、
本当に嬉しいです。ありがとうございます」
「唯衣様……!」
二人とも、
目に潤んだ光を浮かべている。
その姿を見て、
わたしはもう一度、
今度は静かに笑った。
レオのいない生活が、
こうして温かな人たちと共に幕を開ける。
本編の裏側や、レオと唯衣の甘い日常をXで更新中です。
小説の合間の息抜きにどうぞ。
X「真壁レオは今日も重い」
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