真壁レオ11
もう、本能に抗うのはやめた。
耳もしっぽも、どうせ引っ込まない。
だって嬉しい。
どうしようもないくらい。
「アレルギーとか苦手なものありますか?」
キッチンから聞こえる明るい声。
レオはソファに座りながら、耳をぴくりと動かした。
「ない」
できるだけ平静を装って答える。
だがしっぽは正直だった。
ふわふわ揺れている。
今、俺は、彼女の家にいる。
その事実だけで、脳がおかしくなりそうだった。
部屋に案内されるまでのエレベーターの中もヤバかった。
狭い。
近い。
シャンプーの香りがする。
あーー、俺は、今、死ねる。
「肉じゃが大丈夫ですか?」
そう言いながら、すごい速度で料理を並べ始めた。
小鉢。
味噌汁。
ご飯。
整った配置。
無駄のない動き。
「……早いな」
思わず呟く。
唯衣は振り返って笑った。
「ふふ。整う感じ、わかります?」
「整う?」
「わたし、整えるの好きなんです。気持ちいいですよね?」
レオの耳がぴくりと動く。
「……ああ。わかる」
「ほんとですか!?」
唯衣の顔が一気に明るくなる。
「なかなか理解してもらえない感覚みたいで。ふふ、初めてです。なんか嬉しいな」
初めて。
その言葉だけで、レオの心臓が跳ねる。
「さ、統括。熱いうちにどうぞ!」
久しぶりだった。
こんな温かい食事。
誰かと食べる食卓。
身体の奥が満たされていく感覚。
気付けば、かなり食べていた。
食後のお茶を飲みながら、レオはふと視線を落とす。
そして。
胸の奥に、小さな黒い感情が浮かんだ。
「あの、白石」
「はい?」
「……よく、男を家に入れるのか」
言った瞬間、自分で落ち込む。
何を聞いてるんだオレは。
唯衣はきょとんと目を丸くした。
「??? いいえ?」
即答。
「初めてです。手料理振る舞ったのも初めてですし」
その瞬間。
レオの耳としっぽが、ぶわっと元気になる。
「……っ」
嬉しい。
嬉しすぎる。
「お、オレは……いいのか?」
声が少し掠れた。
唯衣は少し照れたように笑う。
「統括は特別です」
世界が止まった。
「わたし、真壁統括のこと好きです。」
レオの思考が完全停止する。
「え」
「お付き合いとかしたことないので、この気持ち初めてなんですけど……好きです」
沈黙。
数秒。
レオは固まったまま、ゆっくり瞬きをした。
そして。
「……うん?」
唯衣が首を傾げる。
「あれ? 真壁統括?」
名前。
今。
真壁って呼んだ。
統括じゃなくて。
レオの脳内で、何かが爆発した。




