3年目の春2 真壁レオ
俺は
唯衣と離れるなんて、
1アト(a)も考えていなかった。
ちなみにアトというのは最小単位だ。
なのに
どうして今、
一人で飛行機に乗って、
行きたくもない北米へ向かっているのか。
それは
ひとえに唯衣が、
それを望むからだ。
「はぁ……」
大きくため息を吐く。
本気でトランクに詰めて
連れて行こうと思っていたのに。
ぼんやりとパソコンを開く。
容赦なく送られてくる案件。
会議資料。
事業計画。
概要に目を通して
また、ため息をついた。
ポケットから、
小さなアトマイザーを取り出す。
しゅっ。
静かな機内に、
小さな音だけが響いた。
服から
唯衣の匂いがする。
第五統合事業部、
医療技術課の連中が、
俺のために作ってくれた。
『白石唯衣エキス』
……いや。
『唯衣香水』だ。
「統括の送別、何がいいかみんなで悩んで」
「これだ!ってなったんです!」
「ぜひ向こうで、
いつでもどこでもお使いください!」
「心配無用です!」
「毎月一ダース、直送します!」
「頑張ってきてください!」
どんな言葉より。
どんな贈り物より。
嬉しかった。
唯衣と付き合えた時。
いや。
あれと同じくらい嬉しかった。
こんなに感動したことはない。
本当に。
いい部下たちだ。
「もう真壁唯衣なんだぞ…」
アトマイザーを見つめてつぶやく。
唯衣は
自立しようとしている。
守られることに、
もっと慣れてくれればいいのに。
俺と一緒に歩くためには
俺の役に立ちたい。
そう言った。
でも
俺は
もう
いてくれるだけでいい。
本当に
そう思っている。
……でも
もともと
唯衣は自立していたな。
ふと、
出会った頃を思い出す。
一人で頑張って
少し無理をして
それでも誰かのために笑っていた。
そんな唯衣が
次から次へと浮かんでくる。
「ははっ」
思わず笑ってしまった。
やっぱり可愛い。
そして強い。
だから
俺も頑張らないとな。
色々な手配は済ませてある。
真壁家も
景も
第五統合のみんなも
俺がいない間、
唯衣を支えてくれる。
大丈夫
そう信じよう。
「さぁ」
小さく息を吐く。
「俺もやるか」
窓の外には、
雲の海がどこまでも広がっていた。
見るつもりのなかった景色。
今は一人だ。
けれど。
一年後は違う。
今度は隣で、 「綺麗だね」 と笑う唯衣がいる。
そう思うと、 少しだけ前を向けた。




