3年目の春1 真壁唯衣
第二章です
それでは、どうぞ!
レオが北米へ旅立った。
空へ向かっていく飛行機を、
見えなくなるまでずっと見送る。
わたしはそっと涙を拭った。
「よし!」
小さく自分に言い聞かせる。
青い空を見上げた。
「レオ」
「わたしたち」
「一年、頑張ろうね」
春の風が優しく吹いていた。
前を向くまでに、
たくさん葛藤した。
レオの赴任まで、
あと一週間。
離れて暮らす時間を埋めるように、
わたしたちはずっと一緒に過ごしていた。
なのに
ふとした瞬間に、
これからの生活を想像してしまう。
心が千切れそうに痛い。
自分の身体の半分を
捥ぎ取られてしまうような。
世界から色がなくなってしまうような。
そんな圧倒的な孤独が押し寄せてきて、
胸が苦しくなる。
レオに
「助けて」
「行かないで」
そう言って縋り付くのは簡単だ。
でも
わたしはレオをちゃんと
支えられる人になりたい。
そう決めた。
無理を言って、
行く前に籍まで入れてもらったのだから。
――だけど。
やっぱり寂しい。
いっそのこと、
全部投げ出してついて行ってしまおうか。
レオが隣にいてくれた方が、
わたしはもっと強くなれるんじゃないか。
向こうで一緒に暮らしながら、
少しずつ言葉を覚えればいい。
そんなことまで考えてしまう。
「いや……ダメ」
小さく首を振る。
「ダメ……」
必死に弱い心を追い払う。
これからも、
ずっと一緒に歩いていくために。
わたしはここで、
自分に出来ることを増やすんだ。
ちゃんと前を向いて
レオの隣に立てるように。
そう言い聞かせるのに。
また涙が勝手に溢れてくる。
「うぅ……」
声が震えた。
「レオ……」
ぽろぽろと涙が落ちる。
「寂しいよ……」
レオの赴任まで、
もう一週間を切っていた。
夕食のあと
ソファでレオに背中を預ける。
いつもの場所。
いつもの時間。
だけど今日は、
少しだけ怖かった。
「レオ、ちょっといい?」
レオは何も言わず、
そっと髪を撫でてくれる。
わたしは小さく息を吸った。
「……わたしに」
言葉が詰まる。
「頑張れって言ってほしい」
レオの手が止まった。
ゆっくりと言葉を続ける。
「レオと離れるだけで」
「心が苦しいの」
「レオがいないって思うだけで」
声が震えた。
「もう立てない」
ぽろりと涙が落ちる。
「涙もね」
「勝手に出るの」
「ちゃんと頑張ろうって思ってる」
「レオを支えたいって思ってる」
「でも」
小さく首を振る。
「やっぱり寂しい」
「すごく寂しい」
そう言って
わたしはレオの腕を
ぎゅっと握った。
レオは切なそうに
でも、
これ以上ないほど愛おしそうに
わたしを強く抱きしめた。
「頑張れ、なんて言えるわけないだろう」
静かな声だった。
「俺は」
少しだけ困ったように笑う。
「当日、お前をトランクに詰めて
連れて行こうとすら思ってる」
思わず顔を上げた。
「え……?」
レオを見る。
レオは少しだけ目を伏せた。
「寂しくて立てなくなるのは」
「俺も同じだ」
その声が少し震えている。
「お前を置いて行く俺の方が」
「ずっと怖くて」
「狂いそうなんだ」
わたしは言葉を失った。
レオはそっと髪を撫でる。
「支えてもらうんじゃない」
水色の瞳が真っ直ぐわたしを見た。
「お前がここで待っていてくれるから」
「俺は向こうで戦えるんだ」
胸がいっぱいになる。
わたしは力いっぱい、
レオをぎゅうっと抱きしめた。
レオの方が
きっともっと苦しい。
わたしには
真壁家のみんながいる。
会社のみんなもいる。
「寂しい」
「つらい」
そう言える人が、
たくさんいる。
でも
レオは
一人で海を渡る。
レオに言ってよかった。
弱音を吐いてよかった。
「レオ」
抱きしめる腕に力を込める。
「ありがとう」
「本当にありがとう」
1週間前の出来事が過る。
今日の空港は
春の風が優しく吹いていた。
本編の裏側や、レオと唯衣の甘い日常をXで更新中です。
小説の合間の息抜きにどうぞ。
X「真壁レオは今日も重い」
@reo_yui_archive




