白石家に挨拶に行く2
実家までは車で二時間ほどかかる。
高速道路を走り、
途中のサービスエリアで昼食を摂った。
少し時間を調整してから、
再び車を走らせる。
やがて見慣れた景色が見えてきた。
「着いたよ」
小さく呟く。
車が止まると、
玄関の扉が開いた。
「唯衣、お帰りなさい」
母だった。
いつもの笑顔で手を振っている。
「ただいま」
笑顔で答える。
「レオさんね」
「いらっしゃい」
「遥々(来てくれて)ありがとう」
そう言って温かく迎えてくれた。
「お邪魔します」
レオも丁寧に頭を下げる。
どうやら
父はまだ帰ってきていないらしい。
「さぁ、どうぞどうぞ」
母に促され、
二人はリビングへ通された。
しばらくして。
コーヒーを淹れた母が戻ってくる。
そして
レオの顔を見るなり固まった。
「……」
数秒
じっと見つめる。
「レオさん」
「はい!」
「…すごい美形ね」
「は?」
嫌な予感を覚えた。
遅かった。
母はレオの頬へ手を伸ばす。
「お肌もつるつる!」
ぺたぺた。
「お母さん!」
悲鳴を上げた。
「やめて!」
「レオが減っちゃう!」
「減らないわよ!」
母は笑いながら答える。
「芸能人みたいじゃない」
「わたし推し活しようかしら」
「やめて!」
「触らないで!」
母は本気だ。
一方
レオは固まっていた。
完全に処理が追いついていない。
「あら」
母が首を傾げる。
「固まっちゃった」
「お母さんのせい!」
「レオ!」
慌てて顔を覗き込む。
「大丈夫?」
「えっ?」
レオはゆっくり瞬きをした。
まだ状況を理解できていない。
「唯衣…」
「だ、大丈夫…?」
レオは真顔だった。
わたしは天を仰いだ。
そして、
「お母さんがごめんなさい!
今日だけだよ!たぶん!」
「たぶん?」
レオが聞き返す。
その横で。
「まぁ可愛いわ!」
母はスマホを取り出した。
「写真に残さなきゃ」
「お母さん!!」
わたしの叫び声が家中に響いた。
そんな時だった。
玄関の方から扉の開く音がする。
「ただいま」
聞き慣れた声だった。
「お父さん!」
わたしは勢いよく立ち上がる。
「お母さんが!」
「おー」
父はコートを脱ぎながら笑った。
「唯衣、お帰り」
全く慌てていない。
いつもの調子だ。
そして
リビングにいるレオへ視線を向ける。
レオはすぐに立ち上がった。
「はじめまして」
「真壁レオと申します」
深く頭を下げる。
先程まで固まっていたとは
思えないほど綺麗なお辞儀だった。
父は少し目を丸くする。
だがすぐに穏やかに笑った。
「いやいや」
「こちらこそ」
「こんな片田舎までよく来てくれた」
そう言ってレオへ手を差し出す。
レオもその手を握った。
「さぁ」
「まずは座ってくれ」
「話はそれからだ」
父は自然にソファへ腰を下ろす。
その姿を見て
わたしは少しだけ肩の力を抜いた。
良かった。
父はいつも通りだ。
すると
「あなた」
母が口を開く。
「レオさん凄く綺麗なのよ」
「写真撮っていいかしら?」
「ダメだ」
父は即答した。
「お母さん!」
わたしは叫んだ。
そんな事はお構いなしに母は
「ねぇあなた!見て見て!!」
「肌なんてつるつるよ!」
「見れば分かる」
「だから触るな」
「ケチ」
母が頬を膨らませる。
父は呆れたようにため息を吐いた。
その横で
レオは小さく唯衣へ耳打ちする。
「助かった…」
「うん」
わたしは真剣に頷く。
人生で初めて。
父が頼もしく見えた瞬間だった。




