それぞれの戦い AfterTime2
レオはベッドの上で上半身を起こし、
ヘッドボードへ背を預ける。
膝の上では
泣き疲れた唯衣が静かな寝息を立てていた。
柔らかな髪を指先ですくう。
少し赤くなった目元。
涙の跡。
何度も不安を押し殺してきた顔。
かなり無理をさせてしまった。
そう思いながら、
レオはそっと頭を撫でる。
ようやく安心したのだろう。
腕の中の唯衣は、
少しも目を覚ます気配がなかった。
コンコンコン。
静かなノック。
「若様、我々は失礼いたします」
泰山と雫が頭を下げる。
「明日また診察に参りますじゃ」
「本当に良うございました」
泰山は何度も頷いた。
「くれぐれもご無理なさいませぬよう」
「忠告しましたぞ」
「その通りです」
雫も微笑む。
「若様、唯衣様をお労りくださいませ」
「煩い」
レオは即答した。
「さっさと帰れ」
「ふぉっふぉっふぉっ」
泰山は上機嫌のまま笑っている。
「若も元気になったのぉ」
「本当に煩い」
二人は楽しそうに顔を見合わせると、
寝室を後にした。
入れ替わるように景が現れる。
「若」
いつもの冷静な声だった。
「わたくしは本家へ寄ったあと
帰宅いたします」
景は少しだけ口元を緩める。
「本日はやっと妻と娘と一緒に眠れますので」
「くれぐれも悪化するようなことをして」
「幸せを噛み締めているわたくしを呼ばないでくださいね」
「うるさい」
レオはため息を吐く。
「さっさと帰れ」
景は一礼した。
「では失礼いたします」
そう言って寝室を後にする。
しばらくして
リビングの窓が開く音が聞こえた。
大きな翼が昼空へ飛び立ったのだろう。
静寂が戻る。
久しぶりだった。
こんなに静かな時間は。
レオは腕の中の唯衣を見る。
苦しい時も
眠れない夜も
泣きそうな時も
ずっと側にいてくれた。
「……ありがとう」
小さく呟く。
返事はない。
唯衣は安心しきった顔で眠っていた。
レオはその額へそっと口づける。
そして窓の外へ目を向けた。
昼下がりの穏やかな光。
けれど。
少しだけ違う気がした。
長かった戦いが終わったからだろうか。
それとも
腕の中に守りたいものがあるからだろうか。
理由は分からない。
ただ
今はこの時間を失いたくなかった。
レオは再び唯衣の髪を撫でる。
唯衣は小さく身じろぎすると。
安心したように、
さらにレオへ寄り添った。
その姿に思わず笑みが漏れる。
「おやすみ」
静かな声が寝室へ溶けていった。




