それぞれの戦い AfterTime1
泰山先生が駆け込むように部屋へ入ってきた。
「若は?!」
「唯衣様と寝室に」
景の言葉を聞くなり、
泰山は急いで寝室へ向かう。
部屋へ入ると
唯衣がレオへしがみつくように抱きつき、
嗚咽を漏らしながら泣いていた。
レオはその背中を、
優しく何度もさすっている。
「泰山か」
「来てくれてありがとう」
泰山はレオの顔を見る。
数日前までの苦悶はない。
「御身は?」
「大丈夫」
レオは小さく笑った。
「とても晴れた気分だ」
唯衣が顔を上げる。
「せ、せんせぃ……」
「ありがとう、ございましゅ……」
泣き腫らした顔。
レオはその涙を指先でそっと拭った。
「ふぉっふぉっふぉ」
「若、心配をかけましたな」
レオは唯衣を抱き寄せたまま答える。
「ああ」
「一生かけて償うよ」
「れぉ……」
少しして
「唯衣様」
雫が静かに部屋へ入ってくる。
「向こうにタピオカミルクティーを
用意しています」
「いかがでしょうか?」
唯衣の目からまた涙がこぼれた。
「しずく、しゃん……」
「あらあら」
雫は優しく微笑む。
「本当によく耐えましたね」
「わたくしは、とても偉かったと思いますよ」
「誰にでもできることではございません」
そう言って
雫は唯衣をそっと抱きしめた。
診察の間、
唯衣は雫に促されて
リビングへ移ることになった。
景がリビングで、
唯衣の好きな焼き菓子と
人数分のタピオカを手配している。
前回、泰山へ何も用意しなかったことを、
かなりちくちく言われていたらしい。
「唯衣様は少しお休みに
なられてもよろしいかもしれませんね」
雫が優しく声をかける。
「甘いものを召し上がったら、
少し横になりましょう」
そう言ってタピオカを手渡してくれた。
景は第五統合の皆様と朝倉へ連絡を入れ、
解毒薬成功の報告をしている。
しばらくして
診察を終えた泰山が部屋から出てきた。
「唯衣様」
泰山はにこにこと笑う。
「若がお待ちですじゃ」
唯衣が慌てて立ち上がる。
「それと」
泰山は景へ視線を向けた。
「薬もきちんと効いておる」
「心配無用じゃ」
景は静かに頭を下げた。
その様子を見ながら、
泰山は満足そうに頷く。
そして
上機嫌で両手を叩いた。
「さぁ!」
「やっと飲める!」
「飲もう、さぁさぁ!」
待ちに待ったタピオカへ手を伸ばす。
「先生、甘いものはほどほどにですよ」
雫がぴしゃりと言った。
泰山が三秒ほど固まる。
その光景に
唯衣は思わず小さく笑った。
部屋へ向かう前に
唯衣は立ち止まる。
景。
雫。
泰山。
三人の顔を見る。
言いたいことはたくさんあった。
けれど
胸がいっぱいで上手く言葉にならない。
「みなさんがいてくれて……」
声が震える。
「わたしは、戦えました」
涙が滲んだ。
「支えてくださって……」
「ありがとう、ございます」
言い終わる前に。
また涙が溢れた。
三人は何も言わない。
ただ優しく微笑んでいた。
唯衣は大きく息を吸う。
そして
寝室の扉を開けた。
「れおぉ……」
一目散にレオへ飛びつく。
「置いてかないで」
「独りになるかと思った」
涙が止まらない。
「レオがいないと……」
「わたし、生きていけない」
今まで堪えていた言葉が、
次から次へと溢れ出る。
レオは唯衣を抱きしめた。
そして
両手で頬を包み込む。
「俺も一緒だよ」
優しく目を合わせる。
金色に染まっていた瞳は、
もう元の淡い水色へ戻っていた。
穏やかな
いつものレオの瞳だった。
唯衣は小さく息を呑む。
レオがそっと顔を寄せる。
触れるだけの優しいキス。
確かめるように。
大切なものを抱きしめるように。
幸せなパーティーの日から
たった一週間。
けれど
二人にとっては、
ずっと長い時間だった。




