それぞれの戦い 白石唯衣6
タイムリミットまで一日八時間
景さんが大慌てで帰ってきた。
リビングの窓が勢いよく開く。
その瞬間。
空気が変わった。
「唯衣様……!」
息を切らしながら、景さんが小さな箱を抱えている。
黒い翼も乱れていた。
ここまで全力で飛んできたのだろう。
「薬が……完成しました」
掠れた声だった。
「早く」
「若様へ」
「一秒でも早く……」
その言葉を聞いた瞬間。
頭が真っ白になった。
完成した。
間に合った。
本当に。
景さんは壁へ手をつきながら呼吸を整えている。
わたしは口元を押さえた。
涙が込み上げる。
けれど。
今は泣いている場合じゃない。
「レオ……!」
小箱を抱き締めるように持ったまま、
寝室へ駆け込む。
手が震えていた。
怖い。
嬉しい。
苦しかった。
色んな感情が混ざって、うまく息ができない。
ベッドへ駆け寄る。
「レオ」
「レオ、起きて」
耳元で呼びかける。
レオがゆっくり目を開いた。
金色の瞳が、わたしを見る。
「……唯衣?」
涙で声が震える。
「お薬、できたよ」
「みんなが……」
「みんな頑張ってくれたの」
嗚咽でうまく言葉にならない。
それでも。
レオはちゃんと聞いてくれていた。
小箱を見つめる。
そして。
口元をゆっくり歪めた。
「……はは」
小さく笑う。
「間に合わせやがったか」
どこか誇らしそうだった。
レオは薬を受け取る。
少しも迷わず。
一気に飲み干した。
静かな部屋。
わたしはもう限界だった。
涙が止まらない。
そんなわたしを。
レオはそっと抱き寄せた。
熱い腕。
震える鼓動。
それでも確かに生きている。
「……心配かけた」
低い声が耳元へ落ちる。
そして。
「ありがとう」
たったそれだけだった。
けれど。
その一言で。
張り詰めていた心が、全部ほどけた。




