それぞれの戦い 白石唯衣3
「若様が本当に求めておるものを、
思い出させ続けるのじゃ」
泰山先生はそう言って、
ゆっくり立ち上がった。
「また明日、孫娘を連れて様子を見に来る」
そして景へ視線を向ける。
「景、お店に行ってお持ち帰りしてこい、
明日はタピオカを用意しておくこと」
景の片眉がぴくりと動いた。
「かしこまりました」
「明日もどうぞよろしくお願いいたします」
完全に営業スマイルだった。
「先生、お送りいたします」
景がそう言って席を立つ。
唯衣も一緒に玄関まで見送った。
「ありがとうございました」
深く頭を下げる。
泰山先生は
ふぉふぉふぉと笑いながら手を振った。
その後
リビングへ戻った景は、すぐに窓際へ向かう。
「では、わたくしは本家へ戻ります」
「若様のこと、よろしくお願いいたします」
そう言うと。
大きな黒い翼を広げ飛び立っていった。
静かになった部屋。
唯衣はゆっくり寝室の扉を開ける。
ベッドへ近づき、
眠るレオの隣へ腰を下ろした。
銀色の髪をそっと撫でる。
苦しそうな寝息。
それでも少しだけ穏やかになった気がした。
唯衣はそっと口づける。
「レオ」
手を握りながら、小さく話しかけた。
「今日ね、泰山先生っていう
お医者様が来てくれたの」
「優しそうなおじいちゃまだったよ」
「レオのこと、よろしくって言われちゃった」
ふふっと小さく笑う。
「レオが喜ぶこと、いっぱいしなくっちゃね」
そう呟きながら頭を撫でた瞬間だった。
「……唯衣?」
掠れた声。
唯衣は目を見開く。
「レオ、起きたの?」
返事の代わりに。
唯衣はもう一度キスをした。
眠たげなレオは、
目を閉じたままそれを受け入れる。
唇を重ねる。
ゆっくり。
優しく。
けれど。
少しだけ深く。
舌先が触れ合った瞬間、
レオの金色の瞳がぱちりと開いた。
熱を帯びた視線。
そのまま再び目を閉じる。
大きな手が唯衣の後頭部へ回された。
逃がさないように。
引き寄せられる。
深くなるキス。
絡め取るような熱。
「……っ、はぁ」
甘い吐息が漏れる。
どれくらいそうしていたのだろう。
唇が離れる頃には、口元が熱を帯びていた。
唯衣がそっと距離を取ろうとする。
けれど
レオの腕がそれを許さない。
まるで足りないと言うみたいに。
最後に軽く唇を重ねてから、
ようやく離れた。
「……唯衣からのご褒美?」
掠れた低い声。
唯衣は少し照れながら笑う。
「ふふっ、そうだね」
「レオ、頑張ってるから」
蕩けるような金色の瞳が、
唯衣だけを見つめていた。
唯衣はその頬へ触れる。
「わたしにできること、見つかったんだよ」
「泰山先生とお話したの」
レオは黙って聞いている。
唯衣は少しだけ照れながら続けた。
「獣人族にはね」
「本当に大切な相手の匂いとか体温とか」
「そういうものを魂が覚えてるんだって」
レオの瞳が少し細くなる。
「それで?」
「本当に求めている相手は」
「本能を落ち着かせたり、
力をくれたりすることがあるんだって」
そこまで言って。
唯衣は視線を逸らした。
「体液とかも……関係あるらしいよ」
数秒の沈黙。
レオが固まる。
「……誰が言った」
「泰山先生」
「じじい」
即答だった。
そう言って、
もう一度わたしから優しく口づけた。




