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盗賊は聖女に愛される  作者: ton
3章
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拮抗


ズン と重みのあるひと振りが振り下ろされ、それを剣で受けとめている間に目の前に見えたのは獅子の王の顔だった。


「遅い!!!!!」


俺より遥かに大きな大剣を振り回しているのに、一体どこにそんな素早さがあるのか。

やっぱり女装して戦ったときは手を抜かれていたんだ。


そんなことを考えていた一瞬の隙をついて、王の額が思いっきり俺の頭に打ち付けられる。


「くはっ………!!!!」


強い頭突きに脳が揺さぶられ目の前がチカチカと瞬いた。

嘘だろ…まさか、王がこんな手使うのかよ!!


「ハーッハッハッ!!随分ズルい手使うんだなって思ってるんだろうその顔は!

悪いけどこちとら叩き上げの名ばかりな王なんでな!勝ってなんぼで生きてきてるんだわ。

野鼠だろうと倒すって決めたからには手なんか抜きゃあしねえぜ!」


「くっ……!!」


灼けるような灼熱の焔をその瞳に閉じ込めたような目がこちらを向いている。


はは…やべぇな。…逃げられる気がしない。


狩人の俺達は自分の分が悪いとアタリを付けたら逃げ出すものだ。

だがここから逃げればまずこのドアの奥のシルヴィが捕まる。

シルヴィのことだ、逃げろと言ったって動かずにフェイを困らせている筈だ。

…充分に時間を稼がないと。


だが今の俺ではとてもじゃないけどこの王には勝てないだろう。

そう、今のままなら。


この場をなんとかするためには…闇の力を解放させるしかない。



王は光の力を持っている。

勇者の末裔。唯一シルヴィ以外で俺の命を奪える人物だ。

そんな相手を目の前にこの力を解放させるのは、正直危ない橋ではあるが…他に手がないのなら仕方ないだろう。


俺は胸に手を当てた。

あの日覚醒してからずっと、俺は胸の中で燻るものを感じている。


あの俺の分身に出会った時、そしてラクス王に出会った時。

その力は胸のなかで解放しろと言わんが如く、ざわざわと波打つんだ。



まるで過去のあの日のように、思うがまま暴れまわりたいというかのよう。



だから正直俺は恐ろしい。

あの日のように力に呑まれ、またたくさんの人を殺し、傷つける存在になってしまうんじゃないかと。

今はシルヴィ以外にもフェイや村のみんな…リリー達、守ってあげたい人がたくさんいる。

迂闊にこの力を使うのはなんだか違う気がするんだ。


「ほら!ボーっとしてるとどこかが切り飛ぶぞ!!!」


横にスライドするように大剣が振り下ろされる。

飛び上がって空中に逃げれば逆に逃げ場がなくなる。

狩りの癖で身に着いた知識が俺を剣より下へと滑り込ませ、ラクス王の足をひっかけるように蹴り上げた。

するとどこからか、ちゃりん と音がし、小さな光る何かが転がり落ちた。


「?!」


「うぉっとおお!!」


体勢を崩したラクス王がなんとか踏みとどまるかのようにその足で地面を深く踏む。

俺はさっき音がしたものを拾い上げ、サッと首に巻いていた黒いスカーフを外した。


「くっ、なかなかやるな…って、なっっ?!!!」



ラクス王に息をつかせる間も与えず、俺は拾った小瓶の蓋を開けて外したスカーフに中身を擦り付けた。

そのままスカーフを投げ縄の要領で思いっきり投げ、ラクス王の顔が隠れるかのようにして巻き付ける。


「んんぁ……?!!!!!」


鼻から下をスカーフでぐるぐる巻きにされた王の目から焔が消える。


「おま…なに…を………。」

「…悪いな、逃げるのは得意なんだ。」


ガクンと倒れ堕ちる逞しい身体に、ようやく危険から解放されて ほう と息をつく。


俺は今の間に逃げようと石造りのドアを開けた。

そこには。


「ザイラスゥゥゥ~!!!」


案の定逃げてはいなかったシルヴィがおもいっきり俺に抱き着いてきた。


「…はぁ、シルヴィ。感動の再会は後だ。あいつ獣並みだからいつ起きてくるか分からない。」

「そぉ?多分朝まではぐっすりおねんねしてると思うけど。」


飄々とした顔ですっとぼけた顔をしたフェイはニヤリと笑った。



「いつの間に仕込んだんだ。あれ。」

「ん?お前がいつも通り俺達庇って死ににいくんじゃねーかと思ったからさ。行く前にお前のポッケにポイっと。」

「…ほーう?」

「フェイ様お手製、眠り草100%濃縮粉末だからさ、よーく効いちゃいますよん♪」





その後、風の噂で好色なラクス王が神官の女性目当てに神殿に忍び込んだという噂が流れたらしい。


らしいっていうのは、あれだ。

翌日には俺達は舟に乗ってしまったから。

だからあくまで噂で聞いただけなんだけど。




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