深夜の邂逅
「いやー、リードに夜這いしに行ってみようと神殿に来てみたら、まさか盗賊とご対面とは思わなかったわ~。」
首を左右に曲げると、ゴキリゴキリと屈強な筋肉の奥から骨の鳴る音が聞こえた。
手にスラリと抜かれた剣がある。とてもでは常人では持てないような大剣だ。
俺は着ていた長い衣服の内側にシルヴィを隠し、持っていた剣を仕方なしに抜く。
「おーおー、俺相手に剣抜くか。
…命捨てる覚悟はしておけよ。」
ギラリ と光った目線は獣のよう。獅子の王という通り名も頷ける。
以前女装していた時に戦った時とは明らかに瞳が違う。やはりあの時は手加減されていたんだ。
今は完全に男だし、顔を見せたとしてもあの女装が俺だとは気付かれないだろう。
俺は静かに後ろにずり下がり、洞窟への入り口前でシルヴィを石戸の奥に追いやった。
「なっ……!!ザイラス!!!!」
「フェイ!!頼む!!!」
振り返ったフェイが慌ててシルヴィを奥へ引き込み、俺の言いたいことが分かったかのように頷いて入り口の石戸を閉めた。
「嫌だ!!ザイラス!!!!!!」
遠く聞こえるシルヴィの声に、何とか逃げて欲しいと祈りながら剣を再度構えた。
「ん~~???なんかシルヴィの声が聞こえたような…?神殿に帰ってきてんのか??
あ~、シルヴィもそろそろ男を知ってもいい頃だろうし、リードの所行くのやめてシルヴィの部屋に行くか?」
「………っっ!!!!!ふざけるな!!!!!!」
シルヴィの話を引き合いに出されて頭に血が上った俺は、思い切りラクス王に切り込んだ。
しかし…
ガキン
大きく重い音を響かせながら合わさる鋼の音。
シルヴィの声に、気もそぞろになっていたかに見えたラクス王は平然とした顔け俺の一閃を弾いた。
…しかもあの大剣を片手で振り上げて。
「全く…随分血の気が多い盗賊さんだな。早死にすんぞ。」
…“英雄”とはこういう男のことを言うのか と思った。
このまま戦って勝てるわけのない歴然とした力の差。
しかもこのラクス王の持つ光の力は俺を完全に殺すことができるという。
だけど…逆を考えてみればどうだ。
俺もこの英雄の力を消すことだってできるんじゃないか?
前世のように…シルヴィを悩み、苦しませないためには、この英雄をこの世から消してしまえば……。
そう考えてハッと現実に返る。
俺は…、俺は今一体何を考えた???
それって俺がこの英雄を倒す…シルヴィを助けた恩人をこの手にかけるってことじゃないか!
「考え事なんて余裕だなっ…とおおっ!!!!!!」
「!!!!!!」
大きな振りがまた、俺を襲った。
慌てて弾こうとしたが大剣にしてはすごいスピードで、避けきれないと判断して逃げる。
しかしその速度に間に合わず、顔を覆っていた黒地の布が切り裂かれながら剥がれ、顔からは掠ったのか、血が一筋流れた。
「ほー、盗賊もイケメンさんがやる時代になったか。その顔ならどこぞの劇場でお嬢さん相手に稼いだ方が美味しい仕事になると思うがね。」
「………。」
「まぁ、この神殿に盗みに入ろうとするなんざ、まともな人間の考えることじゃねえか。
わりぃけど、俺も一応王様っつーお偉いお冠被ってるから放置はできないんだわ。
とりあえずお前は斬っておいたほうがよさそうだ。…さっき逃げた仲間たちも含めてな。」
「それは…させない!!!!」
剣を振りかぶって斬りかかる。
しかし聞こえるのはやっぱり鋼の音だけで。
「ハハハッッ!!久しぶりに楽しませてくれよ!!!」
ラクス王の軽妙な笑い声と打ち合う音だけが静かな神殿に響いた。




