奪取
「しーっっ!!静かに! 久しぶりだな! 」
階段を駆け上っていったシルヴィは、その姿に気づいた犬型の聖獣に手を振る。
そうすると、今まで獣という感じだった聖獣の顔が…
「わふん!!わふんわふんっっ!!!♥」
…完全なる、ただのわんこに様変わりした。
「よしよしっ♪覚えてくれてたのか!嬉しいぞぉ♪」
シルヴィが白いモフモフの毛をナデナデすると、嬉しそうにすり寄るわんこ…もとい聖獣。
「…いや、犬だろあれ。」
「かわいいですけど、ホントに怖い聖獣さんなんですかねぇ?」
疑問に思いながら遠巻きに眺めていると、興奮した一匹が雄叫びを上げながら、青白い焔を吹き上げた。
「「………」」
無言で遠巻きに見ている俺たちに向けて、シルヴィはクイクイッと手でこちらに来いとこまねく。
「いや無理だから!!何考えてんのシルヴィちゃん!!!俺、犬苦手だし!!!」
「私まだ死にたくないですぅぅぅ!!!!!」
「……はぁ…行くしかないか…。」
「はぁぁ?! 何言っちゃってんのザイラスくぅん!!!」
「しょうがないだろ、シルヴィ指環ないと動かないだろうし。こっちに向かってきたら何とかしてくれるだろ。悪いけどリリー…、鍵、頼めないか。」
「…ううううう…父の恩人じゃなければこんなことしませんよ~。
絶対守ってくださいねぇ…、丸焦げも監獄も嫌ですぅ…。」
青い顔で怯えるリリーを隠すようにしてそろりそろりと階段を上る。
シルヴィに夢中になっている聖獣の視界を避けるようにして、祭壇になんとか到達すると、指環の入った透明のガラスの宝石箱を見つけた。
「ううん…これ、ちょっと私では難しいかもです。ここの祭壇と箱の台座の部分なら何とかなりそうなので、外して箱で持っていくしかないかも。」
「それでもいい、頼めるか。」
「ちょっと待ってくださいね…。」
リリーは慣れた手でカチャカチャと箱の足の部分に止められた部品を上手に外していく。
「できました!!」
「よし!」
俺が箱を手に持ち、シルヴィに見えるように掲げると、シルヴィは察したようで俺たちが逃げやすいように聖獣を誘導してくれる。
俺はひょいっとその箱をフェイに投げ、リリーを抱えてなんとか階段下まで戻っていった。
「はぁぁぁぁ~~~!!命が縮みましたぁ~~~!!!」
「無茶するなぁ、お前ら…。俺、絶対無理だ…。」
「お疲れ~!わ~!!指環だぁぁぁ!!久々の対面~♪」
嬉しそうな顔で箱にキスするシルヴィと、グロッキーになってる俺達…。
はぁ…完全にシルヴィに踊らされたな、今回は…。
「とりあえず誰かに見つかる前に逃げるとするか。」
「ああ、大丈夫かリリー、歩ける?」
「ふらふらしますぅ~…。」
フェイがリリーの腕を持って地下通路への道に入る。
「ううう~ん、開かないなぁ~!」
「無理だろそれは、リリーも開けられないって言ってたからリリーの親父さんに頼むしかない。」
箱を無謀にも力技で開けようとしているシルヴィを引き寄せるようにして腕を掴んだ、その時だった。
俺に向かってきた、ヒュン と空を切る音に反射的にシルヴィを抱え込み身体を捩ると、後ろの入り口に振れるように上下した短刀が突き刺さった。
「夜中にこんなところでコソ泥に会うとは思わなかったなぁ」
窓から落ちる月明かりに反射して輝く、黄金のたてがみのような髪。
ニヤリと楽しそうに笑う笑顔。
「…う、嘘、なんでこんなとこに…?!」
胸の中で呟くシルヴィと同じことを俺も思った。
……なんでこんな深夜、この神殿にラクス王…その人がいるのかと。




