筋肉王との戦い
俺とラクス王が剣を合わせることになったのは、王宮の騎士団の訓練場。
俺はいつもの剣を持って、ラクス王は…大きな大剣を軽々片手で持ち上げていた。
「っひゃ~、すごい筋肉だなぁ!」
「脳みそまで筋肉でできてるんだ。ラクスは」
はぁ、とシルヴィとフェイの声が聞こえる。
俺は騎士団で肩当てと脛当て腕当てをつけ、他はそのままの女装姿だ。
「おーい!ラース!!」
フェイの呼ぶ声が聞こえたので行ってみると、耳打ちされる。
「いいか、怪我しないことも大事だが、あの王に勝とうと思うなよ」
「は?それじゃシルヴィを諦めろっていうのか?」
「そうじゃない、ここで勝つのがめんどくさいことになるってことだよ。
王に手傷でも追わせてみろ。誰だあいつはって話になるだろ。」
それもそうだ。
でもじゃあどうやって勝てば…。
「ラースさん、前へ」
訓練場の中央でラクス王と対峙する。
「はじめ!」
リードワースさんの声が合図になった。
「トゥワアアァ!!!」
うっ…マジか!!最初から切り込んで来るなんて!!
ブンッと勢いよく振られた大剣が空を切る。
辛うじて後ろに跳躍して剣を避けた。ズザッと砂ぼこりが舞う。
「ほらっ、休んでられないぞ!!」
またも凄い勢いで切り込んでくる。
強い!!!
そのスピードはかなり早く、避けては追い付かれ、反撃の隙がない。大剣は力で振り切るからそこに通常隙が生まれる。だがこの王はそれをこの筋肉で、まるで普通の剣を持っているかのようなスピードでまた振り上げてくるのだ。
「ラース!!!怪我だけは…しないでくれ…!!」
シルヴィの悲痛な叫び声が聞こえる。
この勝負に勝たなくては。
怪我をせず、王も傷つけず、勝負を決するには…!!
俺は王の攻撃を避けたあと、後ろを向いて走り出した。
「なんだ、逃げたのか??」
騎士団の揶揄する声が聞こえたが気にはしない、勝つためだ!!
「たあああっ!!!」
俺は一度王から間合いをとって、また王に向かっていく。
俺の読みが当たっていれば…!
ガキン!!!
王は剣を振り上げるのをやめ、俺の一発を剣で抑えた。
ビィィン…
金属の痺れが手に伝わる。
対峙するは、燃える瞳の、獅子の王。
女好きの王のことだ、本当に女に傷を負わせようとは考えていないはずなんだ。
つまりは牽制目的。
だとしたら、勝負は…!
俺はまた、剣を振り上げる。
目的の場所に当たるように……!
ザシュッ
はらり、と落ちたのは、黄土色の髪。
剣がかすった、毛先の一部だ。
傷つけず勝負を決するには、武器の破壊しかない。しかしあの大剣は無理だ。
だとしたら、彼に一撃、しかも相手のプライドをそれほど傷つけずに済み、怪我をせずに実力を認めさせるとしたら、髪しかなかった。
…そしてきっとこの王は、女には甘い。
「いやぁ~!やられた!!!あっはっはっは!!」
王はその落ちた髪を見ると大きな声で笑い始めた。
「よしよし、じゃ、しばらくシルヴィを預けるか。で、観光が終わったら俺の所に二人一緒に嫁に来てくれ。あ、フェリー!お前もよかったらどうだ!!」
「ちょっとラクス!!貴方、手を抜きましたね!!」
リードワースさんが王に食ってかかる。
「抜いてない抜いてない。まさかラースがここまでできるとは思ってなかった。俺のことをここまで追い詰められれば優秀だろ。」
「はぁ…もう。わかりました。
シルヴィ!危険な事をせずに、毎日何をしたか便りを私に送りなさい。
聖女さまへの祈りも毎日欠かしてはなりませんよ!」
「やったぁ!リード大好き!!!」
そういってシルヴィは笑った。
シルヴィのその顔を見て、嬉しそうな顔をするリードワースさんはやっぱりお母さんのようだった。




