弔い
「…っ!!」
激しい腐臭に顔を手で覆う。
見る限り30体はあるだろうか。
「まずは、この臭いをどうにかしないとな!」
シルヴィが杖を構えると。
杖の先に とぷん と、水球が発生した。
その水球は ぱちん と割れたかと思うと、滑るようにして床と壁を伝い、瞬く間に床に落ちた血痕や、湧いて出た蟲などを洗い流していく。
ものの数分で、その場所は転がった死体を残すのみになった。
シルヴィは凄い魔法師なんだと思う。
魔法がどんなものかはまだそんなに分からないが、前に街道で会った男女の魔法師とくらべても規模の大きい魔法を使うかと思えば、髪の色などを変えさせるような繊細な魔法も使えるあたり、さすがに神殿に祭り上げられたことはある。
「ザイラス、手。」
「へ? あ、うん?」
手を求められ、反射的に出した俺の手をシルヴィが繋ぐ。
「人を貶めてこの地に閉じ込められたのは自業自得とも言うかもしれないが、こうなってみると不憫だな。」
「あ…ああ、そう…だな。」
「今となっては自己の罪を悔い、泣いているものもいる。」
「あ…ああ、そう…
…そうなの?!!」
視えちゃってるの?!!
「ザイラス」
シルヴィは俺の手をとって、その菫色の瞳でじっと俺のことを見つめる。
そしてそのまま、その手を額に当てた。
「彼らに安息を」
ひゅう とシルヴィの手を伝って、何かの力が俺の額に到達する。
額がジリッと熱くなった。
「…っあああっっ!!!!!」
まるで額が裂けたのではないかと思うほどの衝撃。
くらくらした視界がようやく安定してきたかと思って目を開けたら。
目の前におおきな黒い、闇色の玉が出現していた。
「…うわ…っ!!なんだこれ!!!」
闇色の玉は死体の山に向かうと、死体を呑みこむ。
なんだ、あれは一体、なんなんだ?!
瞬間。
(アア、アリガタイ。コレデ終ワリヲ迎エラレル)
(自分ノ犯シタ罪ヲ、贖罪スル旅二出ナケレバ…。)
頭に響くたくさんの声。
たくさんの生命の終わり。
魂だけの存在になった罪人は、生きている時には剥がしきれなかった自己の思いぐせの殻を破り、まっすぐな魂になっていた。
自分の犯した罪を理解し、悔い、反省していた。
(アリガトウ)
その声はなぜだかじんと、心に残った。
声が消えると、黒い闇の玉ははじけて消える。
気がつけば。
そこにはがらんとした部屋が残るだけだった。




