世は情け
「おいひいでふっ!ありがとふござひまふっ!!!」
「ああ、口動かしてるときに無理に話さなくても大丈夫だからね」
「ふあぃ!ありがとふござひまふっ!!!」
すごい勢いで残っていたサンドイッチを全て平らげ、同じくすごい勢いで水を飲むと、女の子はふはぁーっと大きく息をつき、手を合わせて食後の挨拶を唱えた。
「ほんっとーにありがとうございます!
私、リリーといいます。このご恩はどうにかして返しますのでっ!!!」
頭を土につくぐらいの土下座で感謝するリリー。
話を聞けば、旅の途中路銀が尽きたがあと少しだからと食事を抜いたら途中で倒れてしまったらしい。
「恩などいいから気にしないで行っちゃっていいぞっ!」
シルヴィは何を警戒してか、俺の腕に抱きついて離れない。
しっしっ と、動物を追い払うかのように手を払う。
確かにリリーは女の子だと可愛い部類に入ると思う。
茶髪に、若葉色の瞳。見るからに快活そうな女の子で、臙脂色の上着と長めのキュロットという旅姿だ。
「あっ!もしかしてお二人はアチチなんですねっ!
美男美女ですっごくお似合いですっ!」
「!! おまえ!すごいいい娘だな!!」
シルヴィはガシッとリリーの手を取った。
「いや、シルヴィちゃん、チョロすぎだろ」
フェイを睨むシルヴィの目が怖い。。
「じゃあ、今度は倒れないようにな」
「はいっ! あれ?でもこっち向かうならフュエール監獄に行くんですよね?旅は道連れです!一緒に行きましょう!」
リリーは重そうなリュックを持って立ち上がる。
「リリーちゃん、監獄にいくの??何しに?」
見た目ただの女の子だ。どう見ても監獄に用があるとは思えない。
「じつはうちのお父さんが収監されてるんです。
うちのお父さん鍵師で…。ちょっと受けた依頼が悪くて。
持ち込まれた金庫開けてたら、それが盗まれた国宝級の宝石で。犯人扱いされて捕まっちゃったんです。」
「それ、いくら国宝級でも盗みだよね?とてもフュエール監獄に収監されるほどでは…。」
「ああ、どうやら神殿にあった金庫らしかったんですよね~。
ははっ」
泣き笑いのように落ち込むリリー。
しかし次の瞬間にはバッと顔をあげていた。
その目は爛々と輝いている。
「でもっ!同じ町のみんなが嘆願書を書いてくれたのでっ!!
ほらっ!今から監獄にこれを持っていって、無実を訴えるんでふっ!!」
そうやって嘆願書をバッと広げた。
(…噛んだ)
(…噛んだ)
いい話だったのに、意識が全部最後に持っていかれた。
なんということだ。
しかし、シルヴィだけが何故か凄く真面目な顔をしていて。
「リリー。神殿の宝石って、もしかして"聖女の指環"か?」
「!そうです! よくご存知ですね!」
「なるほど。で?金庫は開いたんだな。」
「ええ、今は神殿に厳重に保管されてるって聞いてます。」
「…ふーん」
遠くを見るシルヴィは、なんだか少し何かを懐かしむような、少し悲しい表情をしていた。
そういえば、俺はシルヴィから今までの話は聞いたけど、実際にシルヴィがどう思って生きてきたかとか、どんな人と関わってきたかとかは全然知らない。
むしろ知っていることのほうが少ないんじゃないか?
そんな…浅い関係だったことに、改めて気付いてしまった。
…好きだといわれて、浮かれていたのは俺の方じゃないのか?
なんだか胸が焦げ付いたような、気持ちの悪さが広がる。
でもそんなぐちゃぐちゃな気持ち。
シルヴィには知られたくなかった。
「じゃあまぁ、一緒にいくか。俺はフェイね。
あっちがザイラスで女の子の方がシルヴィ」
「はいっ!ありがとうございます!
で、みなさんは何をしに監獄に行くんですか?」
「…あ~、まあ、リリーちゃんと同じような感じ?
収監された知り合いに会いにね。あはははは!」
「?どうした?ザイラス」
様子の変わった俺を気にして、シルヴィは声をかけてくれた。
「…あっ、いや、何でもないよ。行こうか。」
……言えないって。こんな…まるで嫉妬みたいなの。
監獄に向けて歩きだす。
胸に凝った焦げ付きは、まだ落ちない。




