逃走
他の客に紛れるように、宿を出たのは朝方だった。
「ありがとうございました~!」
ガラゴロと、大きな荷物を引きながらたくさんの宿泊客が宿を出る。
この村には学校があるため、帰省前後のこの時期は迎えの馬車や保護者が多い。
「納 得 い か な い !!」
「あ~、これはしょうがないっていうか…
一番見つかっちゃまずいんだから、しょうがないだろ」
俺は身長的に子供を迎えに来た父親の役。
ラフな男性服に付けひげに帽子という、すこし中年を意識した格好をしている。
さっきからぶすくれているシルヴィは、女の子だとばれやすいということで、息子の変装。
少年のような格好でシャツにズボンにサスペンダーに眼鏡。
長い髪はハンチング帽にまとめて入れて、光の魔法でブルーグレーの髪色に変化させていた。
さながら少年探偵のようだ。
「うふふ、ここは我慢我慢♪」
髪はアップした茶色い髪のカツラ。
オレンジ色の女性用ドレスを着て、目立つ肩幅はパフスリーブの上着でごまかしているのは母親役のフェイだ。
「そっちをわたしがやりたかったのにっ!!」
「おほほ、身長的に無理だからここは許してちょうだいね」
なんだか様になりすぎてて嫌だ…。
宿を出た俺達は、村の端で馬を買う。
監獄へはここからちょうど馬で一日だ。
馬にフェイとシルヴィを乗せ、俺が馬を引きながら村の西の出口に向かう。
「誰かに見られてる感じ、するか?」
「いや、大丈夫かな。このまま抜けよう。」
出口を抜け、およそ一時間後。
「はあああぁ~!そろそろいいだろ!」
「多分な。お疲れさん。」
変装を解いて、元の姿にもどる。
髪色だけは黒だと普通にまずいので、シルヴィに村にいたときと同じ魔法はかけてもらったままだが。
「歩きながらになるが、マリーンちゃんがくれたサンドイッチがあるぜ。食べるだろ?」
そろそろ昼になる。行儀は悪いが追手が来るかもしれないと思えば仕方ない。
フェイとシルヴィも馬を降りて、サンドイッチを頬張りながら街道を歩いた。
「これだとザイラスにあーんができない…。」
不満気に呟くシルヴィ。
今日は変装の件もあって朝から不機嫌だったからな…。
ちょっと可哀想だったか。
「じゃあ今日は俺から。」
冗談半分で俺の持っていたサンドイッチをシルヴィに向けると、シルヴィははじめキョトンとしてたけれど、そのあと嬉しそうに笑ってパクっと食べた。
「ん!おいしい!」
その笑顔が破壊的で。
な…なんだこれ…。
なんだか胸がギュンってしたんですけど!!!
「なんなんだこのバカップル…。」
食事も終わりかけた、そんな時だった。
ギュオオオオオオオオ…
周りに響き渡る鳴き声。
「な…なんだ!魔獣の鳴き声か?!」
そろそろ山際にもなる。狼の魔獣がでてもおかしくない。
俺達は剣を構えた。
…しかし聞こえてきたのは。
「お…お恵みを…」
ギュオオオオオオオオ
その音は、街道に倒れていた女の子から聞こえてきていたのだった。




