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盗賊は聖女に愛される  作者: ton
2章
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シルヴィの記憶

生きることと死ぬことは、どちらがつらいのだろう。



冷たい風が身体の回りを吹き抜けた。


「またこんなところに一人で…。調子を悪くしたらどうする。」


こんな高い塔の上まで来て声をかけてくれるのは一人しかいない。


「ちょっとね…疲れちゃったから、遠くを見たくなって」

「…行くなら俺に声をかけていけ。」

「うん、今度はそうするね。」


そういって、私は旦那様の腕に抱きついた。


長く黒い髪色は私とは逆。

夜の闇の色。私はそれが好きだった。




私達は人間ではない。

光と闇を司る、名もない存在だ。

私が生まれたときから旦那様と一緒にいた。

それが普通で、当たり前だった。



それがいつから変わったのだろう。

私達はいつの間にか産まれていた、人という存在にほとほと疲れきっていた。


光…生を司る私は人に聖女という名で崇められ、死を司る旦那様は魔王という名をつけられ人に嫌悪された。


私には救いを求めるのに、旦那様のことを人間達は殺そうとしはじめたのだ。

人間がこの世に産まれた頃、私が人間達の長となる人間に少し力を与えたのが悪かった。


…旦那様を殺せる手段を渡してしまったことに気づかなかったのだ。


光の力は闇を照らし無に帰す。

勇者と呼ばれたその力を持つ人間は、旦那様を殺そうと何度も狙ってきていた。




「ごめんなさい…旦那様。」

「気にしないで、君が笑顔でいてくれるのが一番俺にとっても嬉しいことなんだから。」


そういって、優しく笑う。

その度、罪悪感が胸をギュッと締め付ける。

愛する人を殺されてしまうかも知れない恐怖が身を襲って久しい。

勇者は確実に力をつけ、旦那様はいつ殺されてしまうのかも分からない、そのくらいまで成長してしまっている。



旦那様は優しい。

この優しさは、死を司っているからこそなのだと思う。

この世を一生懸命生きたその終わりには、穏やかな眠りがふさわしい。

闇も死もこの世の理として必要なこと。

しかし繁栄を求める人間達は、その事を真に理解していないのだ。




塔を降りると、またも勇者に狙われた。


「魔王!! 滅べ!!!」

「くっ……!!!」


「旦那様!!」



実は勇者の力を取り上げる方法は無い訳ではない。

勇者を闇に葬り、力を除けば可能なのだが…

旦那様は寿命でもない勇者を葬れないのだ。


……本当に、なんて優しい。



「覚悟!」


「やめなさい!!!」



まばゆい光で照らし、私は旦那様の手を取り、魔法でその場から消えた。




「ありがとう、助かったよ」

旦那様はそういって、また笑顔で私を見る。




「そんな…そんな優しい顔で私を見ないで!!!」




…もう、私は限界だった。



「私のせいなのよ!なんでそんな優しくできるの?!

何度も傷ついて、死にそうになって……!!

許さないでよ!あたしのことなんて嫌って、ほっといてくれたっていいのに!!!」


悲しい顔が視界の端に見えた。

でももう、心に広がり過ぎた罪悪感は、真っ黒に私の胸の中を塗りつぶしていて、そのことを気遣うこともできなかった。




「ねぇ……私を愛してる?


愛しているなら、私を闇に落として。



この苦しみから解放してよ!!!!!」






…救われたかった。


私の…光の力が旦那様を滅ぼせるということは。

私を闇に…死という終わりをもたらすことができるのもまた、旦那様だけなのだ。




今思えばバカだったなぁと本当に思う。



私が死んだら、旦那様がひとり、この世界に残ってしまうことも。


自分が抱えた同じ痛みを、旦那様に味あわせることも。



…そうしなくて、済んだのに。





ごめんなさい。

ごめんなさい、旦那様。

優しい旦那様にこんなことをさせてしまった。


罪は、私にあるの。






旦那様は、少しうつむいて。


その手を私の額に当てた。

そして、優しく私を抱き締める。


…冷たい涙が腕をたどって、私の額を濡らす。





「愛してる」








そして、私の世界は闇に落ちた。




--------------------


明るい月夜。

眠るあの人の隣で、その寝顔を見つめた。




「会う資格なんてないと思ってたけど…

会わないなんて、無理だった。





……愛してるわ。」


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