とある不届きな政府高官
「これは、本来は極秘事項なのじゃが……」
と、帝国宰相が語るところによれば、その「極秘事項」とは、早い話、とある政府高官(一人なのか複数なのかは不明)が唯一神教の幹部と親しくなり、教団に対して機密情報を漏らしたり、いろいろと便宜を図ったりしている疑いがあるというもの。
「じゃから、その不届きな政府高官が教団と結託して、よからぬことを企てるであろうから、そういった証拠、あるいは誰が見ても教団がヤバイという証拠をつかんでほしいのじゃ」
帝国宰相は、重々しい口調で言った。ただ、その口調とは対照的に、話の内容は重たくなく、むしろ、とても軽い感じに聞こえる。唯一神教の幹部と通じている政府高官が誰なのか分からないし(あるいは、宰相自身は知っているが教えてくれないのか)、情報の漏洩が罪なら、自発的に二重スパイの道を選んだわたしだって、(バレないように、うまくやるつもりだけど)同じことだ。「誰が見ても教団がヤバイという証拠」に至っては、単に言葉だけが踊っているような印象。
のみならず、この程度の話なら、パターソンから聞いていて既に知っている。帝国宰相にとってみれば、ある程度の情報を提供したつもりかもしれないが、もう少し詳しく、すなわち、政府高官の氏名くらい教えてくれないと、証拠の捜しようがない。
帝国宰相は、おもむろにわたしの肩に手を置き、その手に力を込め、
「頼むぞ、我が娘よ、頼りにしておるぞ」
「……は、はあ……、『頼りに』と言われても……」
「では、わしは忙しいので、これでな」
宰相は、わたしの返答をきくことなく、くるりと向きを変えて歩き出した。
「帝国宰相、これから何か御用ですか?」
「まあな。例の『大盤振る舞い』じゃ。まったく、あいつらときたら……」
宰相は、わたしが何度か呼び止めてみても振り向くことなく、足早に宮殿の廊下の奥に消えていった。一体、なんなんだか……
帝国宰相の姿が完全に見えなくなって、
「行っちゃったね。分かったような、分からないような話だったけど……」
プチドラがわたしを見上げ、言った。でも、「分かったような」という部分はあっただろうか。わたしには、サッパリ分からない話に思えるが……
その時、帝国宰相が見えなくなったのとは反対の方向から、ドタバタと何やら騒動しい(漫画的に書き文字を伴った全力疾走のような)物音が響いてきて、
「お急ぎ下さい! とにかく、お急ぎ下さい!!」
「まあ待て、そう慌てるなよ。急いで間に合うならともかく、全速力で走ったって、間に合わないんだろう。どうして余計に体力を使おうとするんだ?」
「侯爵はゆっくりしすぎなんです! 本当に、いつまでたっても子供みたいに!!」
と、二人の男が大声で話し合う声が聞こえた。このパターンは間違いない。わたしとプチドラは身震いしながら顔を見合わせ、先刻まで隠れていた柱の陰に、もう一度隠れた。この二人は、ツンドラ侯とニューバーグ男爵に違いない(と言うか、彼ら以外に有り得ない)。




