もう少し詳しい話を
帝国宰相に頼まれたのは、言うまでもなく、唯一神教の件。宰相は、教団の重大な違法行為の証拠を期待しているに違いない。でも、その証拠に関しては、今のところ、収穫はゼロ。ただ、そのように正直に応答する気になれないし、のみならず、更に馬鹿正直に「お金に目がくらんで二重スパイになりました」と言えるわけがないので、
「この前からの件ですか。それは、はて……??」
わたしはニッコリとして、帝国宰相の顔を見上げた。冗談が分からない宰相のことだから、すぐに頭に血が上るかと思ったら……
「我が娘よ。あまり年寄りをじらすものではないぞ。頼んでいたことと言えば、例の特命の件に決まっておるではないか。さあ、どうじゃ?」
今日の宰相は口調も穏やか。今のところ機嫌は悪くないようだ。わたしは、とりあえずの当たり障りない返答として(今日のところは、コーブ事務局次長から渡された怪しげな書類を示すことはないだろう)、
「例の件ですね。今のところ、有力な証拠は見つかっていません。でも、腕利きの部下を教団に潜り込ませ、潜入捜査を行っているところですので(実際に潜入してるのは自分だが)、そのうちに何か、出てくるかもしれません」
すると、帝国宰相は、ガックリと肩を落とし、
「それは残念じゃ。証拠さえあれば、会議でもヤツらに大きな顔はさせないのだが……」
帝国宰相は腕を組み、「う~ん」とうなっている。何を悩んでいるのか知らないけど、そもそも、なぜ宰相に唯一神教の違法行為の証拠が必要なのだろう。また、今の言葉にあった「会議でもヤツらに」とは、どういう意味だろう。もうそろそろ、違法行為の証拠みたいな漠としたものではなく、詳しい情報を教えてくれてもいいのではないか。
「あの~、帝国宰相、根本的なところで質問があるのですが……」
「質問じゃと? なんじゃ、言ってみるがいい」
「これまで調査を行ってきましたが、手がかりが『違法行為の証拠』だけでは、なんとも……、要するに、教団がどんな違法行為を行っているのか教えてくれないと、調査しようがないのですが……」
「うむ、言われてみればのう……」
帝国宰相は、そう言いかけて、もう一度「う~ん」とうなった。そして、「あ~」とか「う~」とか声を上げ、頭の上や首筋など体のあちこちに手をやりながら、わたしに情報を与えてよいものか考えているようだ。
しばらくすると、帝国宰相は、周囲をぐるりと見渡した後、おもむろに咳払いをして、
「我が娘よ、そなたの言い分にも、もっともなところがある。本来は、あまり言いたくないのじゃが、特別に、特命の趣旨について……」
と、身をかがめ、わたしの耳元に顔を近づけた。
「……!」
ちなみに、これは、わたしの声にならない声。正直なところ、帝国宰相と物理的に接近したくはないけれど、この際なので、仕方がない。




