御都合主義の極み
プチドラを抱いて柱の陰に隠れ、じっと息を殺していると、ドタバタという足音とともに、男の話し声はますます大きくなっていった。
「まあ待て、そんなに慌てるなよ。ゆっくり行ったって、会議は逃げやしないんだ」
「いけません! どうして、こう……、それに、今日は『大盤振る舞い』の出し物が正式決定されるんですよ。主役がいなくて、どうしますか!!」
程なくして、大男と小男、すなわち、予想どおりのツンドラ侯とニューバーグ男爵のペアが、わたしの隠れている柱の横を猛スピードで走り抜けていった。
そして、二人の声が完全に聞こえなくなると、わたしはホッと胸を撫で下ろし、
「気付かれなくてよかったわ。見つかったら、きっと、いつものゲテモン屋で、ゲテモン料理の時間無制限デスマッチ的フルコースに付き合わされるわ」
「そうだね。いつものことながら、ゲテモンだけは御免だから……」
プチドラも、大きな息をふぅと吐き出し、一安心といったところ。
その時……(今日は何回目の「その時」だっけ?)
「ハッハッハッハッハッ!」
突然、宮殿の長い廊下に、快活な男の声が響いた。これは、何度も聞かされて、すっかりお馴染みになっているところの、あの人の声。御都合主義の極みに見えるかも知れないが、現実に、御都合主義的に事が運ぶことも、往々にしてあるものだと思う。
柱の陰から廊下に出てみると、こちらに歩いてきたのは、果して、よく目立つ白いローブを着た魔法アカデミーのパーシュ=カーニス評議員だった。
「ハッハッハッ、誰かと思ったら、ウェルシー伯ではありませんか。このところ御尊顔を配しておりませんがな、お変わりありませんか?」
この人は、常に飄々として、まったくつかみ所がない。
ともあれ、わたしは社交辞令としての愛想笑いを浮かべ、
「パーシュ=カーニス評議員こそ、元気そうでなによりです」
パーシュ=カーニス評議員は、ここで、突然何を思ったか、辺りに誰もいないのを確認するように、周囲をキョロキョロと見回し、
「ところで、ウェルシー伯、御存知ですか? 例の『大盤振る舞い』ですがね……」
体をかがめ、わたしの耳元に口を近づけて言った。いきなり「御存知ですか」と言われても、なんのことか分かるはずがない。
ところが、評議員はここで、ふと口をつぐみ、
「いや、これはまだ、マル秘事項だったかなあ。どうだっけ」
と、まるで、一人コントをしているみたいな様子……
「まあ、いいか。どうせ、そのうち一般公表されるんだから。例の『大盤振る舞い』、今回は、とても面白いことになりそうですよ」
ともかくも、踏ん切りがついたのだろう。パーシュ=カーニス評議員はニコニコとして(いや、「ニヤニヤと」とする方が正確な表現だろうか)、その「面白いこと」の詳細について語り始めた。




