キャンベル事務局長の話
教団信徒の信望の厚いコーブ事務局次長に対し、キャンベル事務局長の評判は、ハッキリ言うと、散々なものだった。事務局長は、昼夜問わず酒を飲み、常に酒臭い息を吐き出して周囲を不快感に包み、なんの前触れもなくぶち切れて暴れ出すという、指導者という以前に人間としてどうかという類の人物らしい(要するに嫌われ者、できるだけ関わり合いたくない人物ということ)。どうしてそんな人物が「事務局長」という事務的に最高の肩書きを有しているのか、気にはなるが、これも教団内ではアンタッチャブルになっていて、そういうものとして受け入れる以外ないとのこと。
しかし、それでいて、キャンベル事務局長は、教団の自衛部門すなわち聖戦士の最高指揮官とされているのだから、ますますわけが分からない。これはまさに、「基地外に刃物」ではないだろうか。
もっとも、聖戦士の最高司令官は形式的には教祖様であり、キャンベル事務局長は、法理論的には、教祖様を補弼して聖戦士に対する指揮権を行使するに過ぎない。また、実際上の手続として、聖戦士動員の際の命令書にコーブ事務局次長の連署を要求することにより、キャンベル事務局長が聖戦士を勝手に動かして暴走することのないよう、歯止めをかけようとしているという。
ちなみに、廊下を歩いていて、「うぃ~~~、ヒック…… どうだぁ、諸君、頑張っておるかぁ……」という声や、ドカッ・バキッという物が壊れる音が聞こえたら要注意、とにかく早くその場を離れるのが教団内の常識とか。酔っ払ったキャンベル事務局長が血走った目を光らせて徘徊して来るので、ぐずぐずしていて見つかったら、理由もなくボコボコにされるらしい。
なお、月に2回か3回、コーブ事務局次長が突如としていなくなる日には、同時に、キャンベル事務局長の機嫌も特に悪くなるという。その日、事務局長は酔っ払って獣のような声を上げ、本部内で誰彼構わず襲いかかり、備品を破壊するので、教団信徒は部屋にこもって鍵をかけ、じっと息を潜めるのが通例とのこと。
コーブ事務局次長やキャンベル事務局長については、教団信徒から多くの話を聞かされたが、教祖様に関しては、なぜか、あまり情報は得られなかった。信徒たちが教祖様について語るときには、皆一様に恍惚としてある種の興奮状態となり、「教祖様は唯一神の直系であり、かつ唯一神そのものであり、我らが唯一神教のシンボル」と、口をそろえて言うが、信徒たちは、教祖様の名前すら知らないのだ。
教祖様の部屋は、教団本部の建物の一番奥まったところ(廊下の一方の突き当たり)にあり、その手前には、まるで教祖様を監視するように、コーブ事務局次長の部屋が配されている。また、コーブ事務局次長の部屋の廊下を隔てた対面の部屋は、なぜだか錠前が3重にかけられていて、「開かずの間」のような様相。この部屋が帝都の一等地にあるわたしの屋敷と地下でつながってたりすれば何かと便利だけど、いくら御都合主義とはいえ、そこまではないだろう。




