不可解と言えば不可解なこと
こうして、日々、教団本部内で違法行為の証拠を捜し回ったにもかかわらず、成果は、まったくと言っていいほどなかった。唯一神教には、帝都の政治家、(従来型の)宗教界、富裕層、一般市民などが思うように、うさんくさい点は多いと思う。しかし、教団が反乱、暴動、国家転覆等々を企てている様子はなく、(教団における暴力的な要素である)聖戦士についても、規模にもよるが、外敵(非合法組織である武装盗賊団など)から教団を自衛するためと考えれば、政府の警察力があまり当てにならないファンタジーの世界にあっては、さほど不自然なものではない。
「お手上げだわ。もう、調査を打ち切ってしまおうかしら……」
「カトリーナさん、弱気ですね。エリート信徒たるもの、そのようなことでは……」
ちなみに、これは、思わず口をついて出たわたしの独り言を、アメリアが勝手に解釈して(政治教育的!?)指導を加えようとしたもの。
なお、わたしとアメリアに対するコーブ事務局次長の覚えは、思いの外、悪くないらしく、事務局長と廊下ですれ違うと、
「今日はどの部署を見学するの? 意外とマメねえ」
などと、賞賛とも冷やかしとも(あるいは嫌みとも)つかない言葉をかけられるようになった。表情や口調等々から推測すると、少なくとも好意的には見てくれているようだ。疑り深い人から見れば不審に映りそうなものだが、常に同行するアメリアのドジッ子ぶりが、相手の警戒心を解消しているのかもしれない。
ちなみに、教団内をあちこち歩き回って得た情報を総合すると、唯一神教の実質的な指導者はコーブ事務局次長であり、彼女が教団の運営や布教活動等、対内的・対外的事務の一切を取り仕切っているという。また、教団信徒の話の中に出てくるコーブ事務局次長の人間像は、具体的に何がすごいのかは判然としないが(聖徳太子が一度に10人の声を聞き分けたみたいなエピソードは聞けなかった)、ひと言で表現すれば、上位数パーセント以内に入る美貌に加え、非常に頼りがいのある女性リーダーといった印象。
ただ、不可解と言えば不可解なことが一つ。すなわち、コーブ事務局次長は、月に2回か3回、突如として行き先を告げずいなくなることがあるという。その際には、教団のユニフォームではなく、美しく着飾って化粧していくとか。このことは、教団本部にいれば誰でも知っているが、あえて問題にしようとしない、また、話題に上ることもないという、言わば、公然の秘密とのこと。
「なんなのかしら。他人の秘密は暴露したいのが人情だけど……」
と、なんの気なしにつぶやいたりすると、
「いけません、え~っと、誰にでも、他人が口を出してはならない領域があるもので、ですから、え~っと……、つまり、このことは、一切、だめなのです」
アメリアは慌てて、わたしの言葉を遮るように言う。コーブ事務局次長の突然いなくなるという話は、教団内ではアンタッチャブル、とにかく触れてはいけないということで、実質は政治将校であるお世話係にも、厳しく言い含められているらしい。




