↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/110

Episode.9 王立魔導研究所

王宮の奥、 厳重な魔法結界の向こうに広がるのは、王立魔導研究所。

漆黒の床に刻まれた魔法陣が静かに脈動し、 宙に浮かぶ書物が自動で頁をめくる。

部屋の中心には、淡く輝く黒い結晶が安置されていた。

それはザンガの瘴気を封じ込めた「試料」だった。

近づくほど空気が重く、肌にまとわりつくような圧がある。

そんな中、恭しく頭を下げる白髪の男がいた。


「ようこそお越しくださいました。

 私はこの研究所の責任者、ゲイル・ハーヴェンと申します」


彼の声は穏やかでありながら、

どこか張り詰めた緊張感を帯びていた。

セシリア女王が軽く頷くと、ゲイルは机の上に広げた資料を指し示す。


「では――現在までに判明している“ザンガ”の情報を共有いたします」


ミリア、ライガ、そしてリリシアは身を乗り出すように耳を傾けた。


◆◆◆


ーザンガに関する研究報告ー


「まず、ザンガの出現場所や周期は一切不明です。

 ただし、共通して“黒い霧”が立ち込めてから数日以内に姿を現す傾向があります。

 霧は瘴気を含んでおり、これを吸い込んだ一定数の者は体調を崩し、

 やがて“魔瘴病”を 発症します」


リリシアは肩を震わせながら呟いた。


「やっぱり......あのときの霧も......

 っというか!待ってくださぃ~私も数ヶ月前くらいに瘴気を吸い込んじゃってるんですけどぉ!

 私、死んじゃいますか!?」


ゲイルは首を横に振る。


「魔障病は早くてすぐに、遅くても瘴気が体内に入ってから2ヶ月ほどで発症します。

 それ以上経っているのであればとりあえずは大丈夫でしょう。

 魔障病にかかる、かからないは運要素もあります故……」


そのまま説明を続ける。


「魔瘴病は進行度によって次第に五感を奪っていきます。

 最後は何も見えず、聞こえず、感じぬまま死に絶えていく恐ろしい病気です...。

 そして瘴気を吸い込んだ量によって進行度が変化していきます。」


ミリアが目を見開く。

母との暮らしを思い出してみると、

確かに五感を失いかけていた感じは見えていた。


「ですが――希望もあります。

 瘴気による病は“エリクサー”を服用することで 治療が可能であることが、つい先日判明しました」


「エリクサー......!」


ミリアが息を呑む。


「ただし、調合は極めて難しく、材料も希少。

 我々研究所でもまだ試作品を一滴も作れておりません」


ミリアは真剣な表情で頷き、核心に迫る。


「......ザンガを、倒すことはできるのですか?」


ゲイルは目を伏せ、重い口を開いた。


「倒す方法は――現時点では見つかっていません。

 ただし、“闇魔法”によって 封印することは理論上、可能とされています。

 かつて魔導の頂点とされた”大賢者”は闇魔法により、ザンガを封印したと文献に記されています。

 ですが、闇魔法の使い手は稀少で......我々の世代では、誰一人見つかっておりません」


その言葉の直後、

――ミリアとライガの視線が同時にリリシアへと向いた。


「......え?」


「......な、なんですかぁ......その目ぇ~!?」


リリシアは両手をぶんぶん振りながら後ずさる。


「わ、わたしは嫌ですよぉ~!

 ザンガと戦うなんて了承してませんし!

  封印とか、そういうのもムリですぅ~!」


その様子に、ゲイルが興味深そうに目を細めた。


「ふむ......闇魔法が使えると?

 しかもあなたの魔力の質――尋常ではありませんね」


ゲイルが魔力探知の魔法を展開し、驚愕に目を見開く。


「......信じられん。

 闇だけでなく、 火・水・風・土・雷――

 すべての属性に適性を持っている!

 光を除けば、理論上“すべて”を操れるということだ!」


リリシアは恥ずかしそうに頬を掻き、


「う、うへへぇ~......そ、そう言われると......

 えへへ......悪い気はしませんねぇ~......」



と、ニヤニヤ笑い出した。

ミリアは苦笑しながら、ぽんとリリシアの頭を撫でる。


「すごいのはわかってたけど......まさかここまでとはね」


「うへへ~。ミリアさん~もっと褒めてもいいんですよぉ~」


横でライガがため息をつく。


「調子に乗んなよ......今の顔、ちょっと怖ぇぞ」


ゲイルは続けて、古びた魔導書を開きながら語る。


「あなたほどの魔法の使い手なら――

  “究極魔術《アルカナ・アーツ》”を会得できる可能性がある」


「究極魔術《アルカナ・アーツ》?」


とライガが首を傾げる。

ゲイルは説明を続けた。


「それは、太古の昔、大賢者が使ったと言われる各属性魔法の極致――魔術の深淵。

 今の世でそれを使えるのは、名のあるSランク冒険者や

 帝国や王都の最上位の数名の騎士、そして“爆炎の魔導士”と呼ばれる犯罪者だけです」


「爆炎の魔導士......?」


「火属性の究極魔術を行使できる者。

 数年前、南方の都市をひとつ丸ごと焼き払ったと伝えられています。

 彼は今、全国手配中。――もし出会っても、戦わないことをお勧めします」


リリシアは、驚異的なスピードで首を縦に振った。


「は、はいぃぃっ!逃げます!全力で逃げますぅぅ~!」


ライガは呆れ顔でため息をつく。


「お前、そういうとこだけ反応早ぇよな......」


少し間を置いて、ミリアが話を戻す。


「では――エリクサーを作るには、

 どんな材料が必要なんですか?」


ゲイルは手元の資料をめくりながら答える。


「エリクサーの調合には、三つの聖なる素材が必要です。

  一つ、エルフの里の“世界樹の葉”。

  二つ、深海の“人魚の涙”。

 三つ、天空神殿の“神水”。

 これらを魔力を循環させながら配合すれば、純度の高いエリクサーが完成するでしょう」


ミリアは真剣な目で頷き、言葉を紡ぐ。


「エルフの里なら――昔、父さんと母さんが訪れたことがある。

 話も聞いてる。まずはそこへ行こう」


ライガは拳を握り、力強く言った。


「よし!じゃあ次の目的地は決まりだな!」


リリシアは少し不安げに呟く。


「エルフの里って......

 迷いの森の奥にあるって噂の、あの......?」


ミリアは微笑みながら答える。


「そう。けれど大丈夫――私たち三人なら、きっと辿り着ける」


そして、セシリアの温かな見送りを背に、

ミリアたちは新たな旅路へと歩み出す。

――次なる目的地、“エルフの里”へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。