Episode.8 歴戦の女王
長い旅路の果てに、ミリアたちはついに王都『グランディア』の城門をくぐった。
巨大な白壁が陽光を反射し、遠くからでも輝いて見える美しさ。
その威容に、リリシアは圧倒されたように口を開けたまま立ち尽くす。
「ふ、ふえぇぇぇ......こ、これが王都ですかぁ~......。
お、お城......大きすぎますぅ~......。
あれ、空に届いてませんかぁ!?」
ライガは苦笑しながら肩をすくめる。
「そりゃ大げさだ。
けどまあ、田舎育ちには眩しすぎる光景だな」
「うう~っ、ライガさんの言い方が地味に刺さりますぅ~!」
そんな二人の賑やかな様子をよそに、
ミリアは迷うことなく王都のメインストリートを進む。
彼女の足取りには、一分の迷いもない。
その迷いのなさにライガはふと嫌な予感が頭をよぎった。
「なあ、ミリア。お前、まさか......」
「......うん。目的地は――王宮だよ」
その瞬間、二人の足が止まった。
「はあああ!? な、なんで王宮!?
行ったところで入れてもらえるわけねぇだろ!!」
リリシアは青ざめた顔で叫ぶ。
「ふ、ふえぇぇぇ!
王宮って、あの、王様とか女王様がいる、あの場所ですよねぇ!?
そんなところ入っていいんですかぁ!? 処刑とかされません!?」
ミリアは振り返って、どこか誇らしげな笑みを浮かべた。
「大丈夫。――この国の女王は、
私の父と母の“元冒険仲間”だから」
ライガが思わず目を丸くする。
「......マジかよ。お前んち、どんだけすげぇ家系なんだ......」
一方のリリシアは、
すでに震えながらミリアの服の裾をぎゅっと掴んでいた。
「む、むりですぅ~!!
女王様って昔、魔神の側近と戦って“魔導の女帝”って呼ばれてるんですよぉ~!
そんな人、私なんかが会ったら一瞬で塵になっちゃいますぅ~!」
「もう、いいから来なさい!」
ミリアは呆れたように笑い、泣きそうなリリシアを
半ば引きずるようにして王宮の門へと進む。
王宮内部は、まさに豪華絢爛の一言だった。
黄金と白大理石で装飾された長い回廊、天井には荘厳なステンドグラスが輝き、
衛兵たちが一糸乱れぬ敬礼を送る。
ライガは口を開けたまま、言葉を失っていた。
「......すげぇ。天井の高さ、俺の村の教会三つ分はあるぞ......」
「はわわぁ~......床が鏡みたいにピカピカですぅ~......」
そんな中、ミリアは凛とした足取りで謁見の間へと案内される。
扉がゆっくりと開かれ――
「お久しぶりね、ミリア。......随分と、大きくなったのね」
玉座に立つ女王が、優しく微笑んでいた。
その人こそ、この国の統治者――セシリア・アルテナ。
彼女の瞳は、若き日の冒険を思い出すように温かく輝いている。
ミリアは膝をつき、深く頭を下げた。
「お久しぶりです、セシリア様。
......お変わりなく、お元気そうで何よりです」
「ふふ......あなたのお母様、リナにそっくりね。
あの頃を思い出すわ......本当に懐かしい」
その言葉に、ミリアの胸が少し痛んだ。
「母も、セシリア様と旅をした日々は、
とても楽しかったと......いつも話していました」
セシリアは微笑みながらも、どこか切ない表情で目を細める。
「そう......リナのことは、本当に残念だったわ。
先日、アステルの領主のルーカスから手紙が来たわ……。
何も力になれなくてごめんなさい…。
あなたを見ていると、あの子を思い出してしまうの......」
ミリアは静かに頷き、言葉を選びながら告げた。
「母の願いを継いで、私は今、 父を探し――
そして“ザンガ”を討つ旅をしています。
その手がかりを、ぜひ教えていただきたく......」
女王の表情がわずかに引き締まる。
「ザンガ......。そう、やはりアルトもその名を追っているのね。
――分かったわ。王宮の研究所へ案内しましょう。
そこには、ザンガに関するすべての記録が保管されています」
女王の言葉に、ミリアは深く頭を下げた。
研究棟へ向かう回廊を歩く三人。
ライガは目を輝かせて、天井画や彫刻を指差しては大声を上げる。
「うおっ、あれドラゴンの彫刻か!? でけぇぇぇ!」
「ライガさん、声が響いてますぅ~......!
静かにしないと捕まっちゃいますよぉ~!」
「いや、そんなわけ――」
「――本当に、にぎやかね」
ミリアが微笑みながら振り返る。
黄金の扉が開かれ、彼らは王立研究所の前に立っていた。
奥からは、魔力の粒子がふわりと漂ってくる。
この場所こそ、世界の真理に最も近い場所――
そして、“ザンガ”の謎の核心に迫る場所だっ た。




