Episode.83 龍殺しの英雄 VS 爆炎の魔導士
轟音が、風の丘に響き渡る。
爆炎と衝撃、焼け焦げた大地。
その中心で――ミリアとバランは互いを睨み合っていた。
「……はぁ……っ」
ミリアが肩で息をする。
額から血が流れ、服の端はあちこち焼け焦げている。
だが致命傷はない。
燕武による最小限の回避を駆使して、ギリギリで爆炎を避け続けていた。
対するバランもまた、無傷ではない。
肩から血を流し、呼吸も荒い。
しかし、その目には未だ狂気じみた闘志が宿っていた。
「ハッ……」
バランが笑う。
「近づきてぇんだろ?」
ミリアは答えず、ただ剣を握り直す。
その瞬間。
ドォォンッ!!
爆炎が炸裂した。
ミリアは即座に横へ跳ぶ。
熱風が頬を掠める。
髪の先が焦げた。
だが止まらない。
ミリアは低く駆ける。
燕武。
踊るように。
滑るように。
最短距離でバランへ迫る。
だが。
「甘ぇッ!!」
バランが地面を爆破。
土煙と炎が舞い上がる。
ミリアは咄嗟に剣で防御するが、衝撃で吹き飛ばされた。
「っ……!」
空中で受け身をとり、着地。
即座に踏み込む。
止まれば焼かれる。
だから前へ。
しかしバランは距離を取る。
近づかせない。
爆炎による間合い管理。
まるで巨大な炎の檻だった。
ミリアが踏み込むたびに爆炎が迫る。
避ける。
躱す。
焼ける。
それでも前へ。
「どうしたァ!?」
バランが笑う。
「さっきの勢いは!!」
爆炎が降り注ぐ。
ミリアは紙一重で回避。
服の裾が燃える。
しかしミリアの目は死んでいない。
頭の中は冷静に。
ミリアはバランの動きをじっと見ていた。
癖は、詠唱の隙はあるか、呼吸のタイミングは。
全てを。
「……」
ミリアが近づくたびに、妙な圧を感じる。
まるで獣に喉元を狙われているような感覚。
一瞬の油断が命取りになりかねない。
「チッ……!」
バランが魔力を練り上げる。
その瞬間、空気が熱を帯びた。
周囲の温度がさらに上昇する。
そして、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
「“究極魔術”――」
その瞬間だった――。
ミリアの目が鋭くなる。
(待っていた、この瞬間を……!)
光が、足元へ集中する。
地面が砕け、ミリアの姿がブレた。
「――っ!?」
バランの目が見開かれる。
速い。
先程までとは別次元に。
「チィッ!!」
バランは咄嗟に究極魔術を解除。
同時に爆炎を展開しようとする。
だが、僅かに遅い。
ミリアが懐へ入り込む。
剣閃がバランを裂く――。
鮮血が宙を舞う。
「ぐっ……!!」
バランの肩が深く裂けた。
そして間髪入れずにミリアが二撃目を入れようとしたその瞬間――。
ドォンッ!!
至近距離の爆炎。
ミリアも咄嗟に身を捻る。
だが完全には避けきれない。
爆炎が脇腹を掠めた。
「っ……!」
熱と衝撃が伝わる。
ミリアの刃の軌道が僅かにズレる。
本来なら腕ごと断っていた一撃。
しかしミリアは止まらない。
バランが体勢を崩す。
その瞬間、ミリアは剣を地面へ突き刺した。
ガキィン!!
剣を支点に、そのまま身体を捻る。
「はぁぁっ!!」
光魔装を纏った蹴りが、バランの腹部へ直撃する。
ドゴォッ!!
バランが吹き飛んだ。
地面を転がり、血を吐く。
「がはっ……!」
ミリアは剣を引き抜き、即座に追撃へ走る。
(逃がさない……。ここで終わらせる!)
バランが顔を上げた。
そして――笑った。
「……最高じゃねぇか」
次の瞬間。
バランが片手を地面へ向ける。
ミリアの瞳が見開かれた。
「っ――!」
ドォォォォォォォォンッ!!!!
地面そのものが爆発した。
超至近距離の自分ごと巻き込む爆破。
炎柱が天へ昇る。
ミリアとバラン、両者が吹き飛ばされた。
風の丘が揺れる。
遠くで戦っていたライガたちも振り返るほどの爆発が風の丘に鳴り響いた。
「ミリアさんっ!?」
リリシアが叫ぶ。
土煙と炎で何も見えない。
焦げ臭い空気が鼻をつく。
やがて――その中から、一つの影が立ち上がる。
「……っ、はぁ……」
ミリアだった。
全身傷だらけで、脇腹から血が流れている。
呼吸も限界に近いが、剣は落としていない。
ミリアは顔を上げる。
そして目の前の光景に息を呑んだ。
バラン――。
肩から血を流し、血まみれになりながらも笑っていた。
その背後には――巨大な魔法陣。
幾重にも重なった炎の紋様。
空気が歪むほど、熱量が異常だった。
周囲の草木が自然発火していく。
「……ハハッ」
バランが笑う。
血を拭いながら。
「いいねぇ……」
魔力が渦巻く。
炎が唸る。
「ここまで追い込まれたのは……久しぶりだ……」
ミリアも剣を構える。
震える足を無理やり前へ出す。
怖くないわけじゃない。
苦しくないわけでもない。
それでも負ける気はなかった。
ミリアは静かに言う。
「私は――」
光魔装が輝く。
「勝つまで……戦う……」
バランの笑みが深まる。
「そうかよ」
炎が膨れ上がる。
「なら――燃え尽きるまで付き合え」
巨大魔法陣が完成し、空が赤く染まった。
ミリアとバラン。
互いに血まみれのまま笑う。
そしてバランが口を吊り上げた。
「第二ラウンドだ」
バランの炎が、風の丘を呑み込もうとしていた。




