Episode.82 体技の極意
風の丘は、戦場と化していた。
炎と咆哮、そして爆発。
さらには魔物たちの唸り声が周囲から絶え間なく聞こえる。
その中を、二つの影が駆け抜ける。
「左二体、前方一!」
ゼインが叫ぶ。
「はいですぅ!」
リリシアの杖が輝く。
「土の障壁!」
地面が隆起。
土壁が魔物の進行を遮る。
動きが止まった瞬間。
ズガァンッ!!
ゼインの魔導銃が火を噴き、弾丸が正確に魔物の眉間を撃ち抜いた。
さらに横から別の魔物が迫る。
リリシアが即座に風魔法を放つ。
「風刃ですぅ!」
魔物の体勢が崩れる。
その隙を、ゼインが逃さない。
二連速射。
正確に魔物の急所を撃ち抜き、魔物が倒れた。
「す、すごいですぅ……!」
リリシアが思わず声を漏らす。
ゼインは軽く笑った。
「そっちが動き止めてくれると撃ちやすい」
二人の連携は、驚くほど噛み合っていた。
リリシアの多彩な属性魔法による妨害。
ゼインの正確無比な射撃。
まるで最初から組んでいたかのような完成度。
魔物たちは近づくことすらできない。
「す、すげぇ……」
フィンは目を輝かせていた。
ミリアたちの戦い。
ライガの咆哮。
全てが、自分の知らない世界だった。
その横で、オズは静かに魔物を倒していた。
派手さはない、だが圧倒的だった。
最小限の動き。
魔物の力を流し、崩し、仕留める。
一体。
また一体。
風のように捌いていく。
だが。
「……ふぅ」
オズが小さく息を吐いた。
フィンが気づく。
「じーちゃん……?」
呼吸が荒い。
肩で息をしている。
オズは強いが、老いていた。
その時。
背後から魔物が飛びかかる。
オズは反応するが、わずかに遅い。
「っ……!」
フィンの顔色が変わった。
身体が勝手に動く。
「うおおおおっ!!」
木剣を握って飛び出した。
魔物へ振り下ろす。
当然、魔物には全く効かず、フィンの木剣は弾かれる。
「うわっ!?」
フィンが尻餅をつく。
魔物が牙を剥く。
だが、その一瞬。
オズの目が鋭くなった。
踏み込み、掌底。
ドォンッ!!
魔物が吹き飛んだ。
フィンは呆然とする。
オズはしばらく黙り込み――そして、小さく笑った。
「……馬鹿者が」
その声は、どこか嬉しそうだった。
「無茶しおって」
フィンは震えながら言う。
「で、でも……!」
オズはフィンの頭を軽く叩く。
「それでも前に出た……。それだけでも、大したもんだ」
フィンの目が見開かれる。
その頃。
丘の反対側では巨大な爆音が響いていた。
グレンザード――SSランク級の魔獣。
その巨体と、ライガが激突していた。
ドォンッ!!
拳と爪がぶつかる。
衝撃波で地面が砕けた。
ライガは全身傷だらけだった。
腕は焼け。
頬は裂け。
息も荒い。
だが、ライガは笑っていた。
「ハハッ……!!」
グレンザードが炎を吐く。
ライガは無理やり突っ込む。
炎を突破。
そのまま鋭い拳を繰り出す。
「六道体技――黒虎夜叉!!」
轟音。
だが、グレンザードは倒れない。
巨体がライガを吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
地面を転がる。
普通の人間なら立てないが、ライガは立ち上がった。
血を吐きながら。
それでも笑う。
「SSランクくらい……軽く倒しときたかったんだがなァ……」
拳を握る。
「まだちっとキツいみてぇだ」
グレンザードが咆哮。
地面が燃える。
ライガは肩を回した。
「……しゃあねぇ」
次の瞬間――。
身体から炎が噴き上がる。
「こっからは本気で行くぜ」
――火属性の魔装。
荒々しい炎がライガを包む。
まるで獣の咆哮かのように轟音が鳴り響いた。
グレンザードの炎とぶつかり合う。
炎VS炎。
熱風が吹き荒れる。
ライガが踏み込む。
速い。
先程までとは別次元。
拳。
蹴り。
連撃。
轟轟轟轟ッ!!
打撃が次々と叩き込まれる。
グレンザードが怒り狂う。
だがライガは止まらない。
「まだだァ!!」
さらに加速。
その動きは、まるで炎の獣。
そして。
ライガが大きく跳んだ。
空中で身体を捻る。
炎が脚に集中する。
「六道体技――」
空気が震える。
「狗刃烈脚ッ!!!」
火属性の魔装を纏った炎脚。
炸裂。
ドゴォォォォォォンッ!!!!
蹴りが直撃した瞬間。
今まで蓄積されていた打撃が、一斉に内部で爆ぜた。
グレンザードの巨体が膨れ上がる。
そして――爆発。
轟音と共に吹き飛ぶ。
丘を転がり、地面に叩きつけられた。
辺りが沈黙に包まれる。
グレンザードは、動かない。
ライガの勝利だった。
「……っはぁ」
ライガは肩で息をする。
全身ボロボロ。
だが、笑っていた。
「SSランクにしちゃ物足りねぇな」
血を拭う。
そして空を見上げる。
「俺も黒龍とやってみたかったぜ……」
その姿を見ていたフィンが、目を輝かせていた。
まるで。
本物の“英雄”を見るように。
その頃。
別の場所では――
爆炎と光が、激しく衝突していた。
ミリアとバラン。
その戦いは、さらに激化していく。




