Episode.81 爆炎再来
風の丘に、熱風が吹き荒れる。
燃えるような魔力。
肌を刺す熱。
フードの男――バランは、ゆっくりと片手を上げた。
その指先で、炎が揺れる。
「久しぶりだなァ、ミリア...だったか?」
ミリアは剣を構える。
その目に迷いはない。
「……あなた、黒狼の牙だったのね」
バランが笑った。
「ハッ、どうでもいいじゃねぇか」
エルフの里近くの森で戦った時とは違う。
あの時は、生き延びるだけで精一杯だった。
だが今は違う。
ミリアの身体から、淡い光が溢れる。
――光魔装。
黄金色の輝きが、彼女の身体を包み込む。
空気が震えた。
ライガが口元を吊り上げる。
「へっ……始まるな」
バランもまた、炎を纏い戦闘体制に入った。
火属性の魔装。
轟、と炎が噴き上がり、周囲の草がじわじわと焼けていく。
周囲の気温が、一気に上昇する。
光と炎。
二つの魔装が、真正面から睨み合う。
「そういやァ、手土産があったな」
バランが懐から、黒い魔石を取り出した。
通常の魔石より、遥かに大きいサイズの魔石。
嫌な気配がミリアの胸をよぎる。
「それは……」
バランは、にやりと笑った。
そして――爆炎を込めて握り潰す。
バキィッ!!
魔石が砕け散った次の瞬間。
巨大な召喚魔法陣が出現する。
大地が震え低い唸り声が鳴り響く。
魔法陣から現れたのは――巨大な魔獣だった。
黒い体躯に溶岩のように赤く光る亀裂。
背中から噴き上がる炎。
四足の巨獣。
その姿だけで、圧倒的な威圧感を放っていた。
「……なんだよ、あれ」
フィンが震える。
オズの表情が険しくなる。
「SSランク級か……」
バランが楽しそうに笑う。
「《灼獄魔獣グレンザード》」
魔獣が咆哮し、轟音が響く。
熱風が吹き荒れた。
ライガが前へ出る。
「面白ぇ」
拳を鳴らす。
「こいつァ俺がもらうぜ」
ミリアが頷く。
「お願い」
「任せろ」
グレンザードが突進。
地面を砕きながら迫る。
ライガも真正面から走り出した。
「おらァァァッ!!」
拳と爪が激突。
轟音。
衝撃波で草原が吹き飛ぶ。
だがライガは止まらない。
「六道体技――阿修羅破掌ッ!!」
鋭い踏み込みで地面が砕け、突き上げた掌が魔獣の顎を打ち上げる。
グレンザードが唸る。
だが、その巨体は倒れない。
逆に炎を纏った尾を振るう。
ライガが腕で受け止める。
「っ……!」
地面を滑る。
だが笑っていた。
「いいじゃねぇか!!」
互角。
まさに力と力の激突だった。
その一方。
周囲の魔物も次々と襲いかかってくる。
「ひぃっ……!」
フィンが怯える。
オズは前に立った。
「下がっていろ」
静かな声。
だが、その背中は大きかった。
魔物が飛びかかるがオズは最小限の動きで躱す。
そして一撃。洗練された戦い。
まるで風そのもの。
フィンは息を呑む。
「じーちゃん……」
リリシアは杖を握る。
「氷槍ですぅ!」
氷槍が魔物を貫く。
ゼインも援護射撃。
魔導銃の弾丸が、正確に急所を撃ち抜く。
「左から二体!」
「は、はいですぅ!」
リリシアが風魔法で軌道を変える。
さらに土壁を展開。
複数属性を瞬時に使い分ける。
その技量は、間違いなく天才だった。
だが――
「リリシア! 右だ!!」
ゼインが叫ぶ。
反応が、一瞬遅れる。
「……え?」
横から魔物の爪が迫っていた。
もう避けられない。
その瞬間。
ゼインが飛び込む。
ドォッ!!
魔物の爪が、ゼインの肩を裂いた。
「っ……!」
血が飛ぶ。
「ゼインさん!?」
リリシアが顔を青くする。
ゼインは舌打ちしながら銃を撃つ。
至近距離から魔物の頭部を撃ち抜く。
「ぼーっとしてんな」
軽く笑う。
だが肩から血が流れていた。
リリシアは震える。
「ご、ごめんなさいですぅ……!」
ゼインはため息をつく。
「気にすんな」
そう言って、再び前を向いた。
その横顔は、どこか苦しそうだった。
そして。
中央。
ミリアとバラン。
二人は、互いを見据えていた。
熱風が吹き荒れる。
「来いよ」
バランが笑う。
「今度は楽しませろ」
ミリアが踏み込む。
速い。
一瞬で間合いを詰める。
剣閃。
だがバランは炎を爆ぜさせる。
ドォンッ!!
爆炎が舞う。
ミリアは燕武で身体を流す。
紙一重。
炎を躱しながら懐へ潜り込む。
「っ!」
斬撃。
バランの腕を浅く裂く。
血が飛ぶ。
だがバランは笑っていた。
「ハッ!!」
炎を纏った魔力の拳。
ミリアは剣で受ける。
凄まじい熱量で地面が焼ける。
バランが距離を取る。
「いい動きだ」
炎を揺らしながら言う。
「前より遥かに強ぇ」
ミリアは構えを崩さない。
「あなたも」
「そうかよ」
次の瞬間。
爆発。
地面が吹き飛ぶ。
ミリアは跳んで空中に逃れる。
そこへ炎弾が連続で迫る。
「“爆炎魔法”――炎の大砲!!」
轟轟轟轟ッ!!
連続爆発。
ミリアは空中で身体を捻る。
燕武。
最小限の動きで回避。
光の軌跡が夜空に走る。
そして一気に加速。
「"龍牙"壱ノ太刀――牙嵐ッ!!」
光を纏った多段の斬撃。
バランが炎で迎え撃つ。
激突し衝撃波が広がる。
周囲の草原が吹き飛んだ。
フィンが目を見開く。
「す、すげぇ……」
オズも静かに目を細める。
「……あれほどとはな」
ミリアとバランは再び距離を取る。
炎が揺れる。
光が瞬く。
互いに傷を負いながら、笑っていた。
バランが口元を歪める。
「ようやく“戦い”になるなァ」
ミリアは剣を握り直す。
「今度は、私が勝つ」
風の丘、その中心で。
光と爆炎が、再び激突しようとしていた。




