Episode.75 龍殺しの英雄
王都中央広場。
焼け落ちた建物の修復はまだ始まったばかりだが――
そこには、かつてないほどの人々が集まっていた。
市民、騎士、そして冒険者たち。
その中心に設けられた仮設の壇上に、二つの影が立つ。
王国の頂点――女王セシリア。
そして、民の信仰を束ねる者――教皇エリウス。
ざわめきは、やがて静寂へと変わった。
セシリアが一歩前へ出る。
「皆、よく集まってくれました」
その声は、広場全体に澄み渡る。
「本日――王都は未曾有の危機に晒されました」
人々の表情が引き締まる。
「ザンガの瘴気により凶暴化した魔物たち、そして――」
一瞬、言葉を区切る。
「“破滅の黒龍”」
ざわり、と空気が揺れる。
「あの災厄が、王都を襲いました」
沈黙が広場を包む。
だが、セシリアの声は強かった。
「しかし――」
その視線が、壇上の下へと向けられる。
そこには、戦い抜いた者たちがいた。
「皆の勇気と力により、王都は守られました」
一斉に拍手が巻き起こる。
冒険者たちが顔を見合わせる。
「あなた方一人一人が、この国の誇りです」
その言葉は、確かに届いていた。
続いて、教皇エリウスが前へ出る。
柔らかな微笑み。
「神の加護は、確かにこの地にありました」
穏やかな声。
だが、その奥にはどこか底知れぬものが潜んでいる。
「ですが、それを掴み取ったのは――」
ゆっくりと手を広げる。
「紛れもなく、あなた方の力です」
視線が巡る。
ベルダたち、シアたち、ルミナス――
そして。
「特に」
その言葉に、空気が変わる。
「この戦いにおいて、“災厄”を打ち倒した者がいます」
ざわめき。
誰もが、その名を知っている。
セシリアが再び口を開いた。
「前へ」
呼ばれたのは――ミリアだった。
「……」
静かに歩み出る。
無数の視線が、彼女に注がれる。
その中には、畏敬と、驚愕と、そして――憧れがあった。
壇上へ上がる。
セシリアの前に立つ。
ほんの少しだけ、目が合う。
その瞳に込められていたのは――感謝だった。
そして。
セシリアは、声高らかに宣言した。
「この者の名は――ミリア・ハワード」
広場が静まり返る。
「“破滅の黒龍”を討ち取り、王都を救った英雄」
一歩、前へ。
「ここに称える」
そして――
「“龍殺しの英雄”ミリア・ハワード」
その瞬間。
歓声が、爆発した。
「おおおおおおおおおおおおお!!」
「すげぇぇぇぇぇぇ!!」
「本当に倒したのかよ!!」
歓喜と熱狂。
名前が、叫ばれる。
「ミリア!!」
「英雄様だ!!」
「龍殺しだ!!」
その全てが、彼女へと向けられる。
ミリアはただ、そこに立っていた。
眩しいほどの光の中で。
(……これが)
胸の奥が、わずかに揺れる。
だが――
その視線は、決して逸らさなかった。
その日。
“龍殺しの英雄”の名は――王都を越えた。
人から人へ。
街から街へ。
やがてそれは、世界中へと広がっていく。
――ミリア・ハワード。
その名は、英雄として刻まれた。
夜。
王都・冒険者ギルド。
酒場は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
「飲め飲めぇ!!」
「今日は無礼講だ!!」
「黒龍討伐だぞ!!」
ジョッキがぶつかり、笑い声が響く。
まさに、勝利の宴。
ベルダもすでに酒をあおっていた。
「はっはっは!!やっぱあいつやべぇな!!」
仲間たちも笑う。
「見たかよあの最後の一撃!!」
「化け物だろもう!!」
「いや〜、すごかったね!」
シアも上機嫌だ。
「ほんと、悔しいけどさ!」
キースが苦笑する。
「完全に主役取られたね」
クレアはワインを揺らしながら呟く。
「……認めるしかないわね」
ルミナスも軽く肩をすくめる。
「久々に見たよ、あそこまでの逸材」
その時――
ギルドの扉が、ゆっくりと開いた。
ギィ……と音が響く。
「……あ」
誰かが気づく。
視線が、一斉に集まる。
そこに立っていたのは――ミリアたちだった。
一瞬の静寂。
そして――
「おおおおおおおおおおおおお!!!」
歓声が、爆発する。
「来たぞぉぉぉぉ!!」
「龍殺しィィィィ!!」
「ミリアァァァァ!!」
酒場が揺れる。
まるで嵐のような歓迎。
リリシアがびくっとする。
「ひゃあああああ!?」
ライガは大笑いする。
「ははっ!すげぇな!」
ゼインは肩をすくめる。
「英雄様は大変だな」
ミリアは少しだけ驚いたように目を見開き――
そして、小さく息を吐いた。
「……騒がしいね……」
だが。
その表情は、ほんの少しだけ――
柔らかかった。
シアが声を上げた。
「ねぇねぇ、みんな!せっかくだし"英雄讃歌"歌おうよ!」
誰かが言った。
「がははっ!いいじゃねぇか!
せっかく英雄様もいることだしな!」
酒場での大合唱が始まる。
『扉開けば 灯りが揺れる
グラスが鳴れば 夜が弾ける
噂の英雄 帰還のサイン
騒めくフロア 期待で満ちる
樽から注ぐ 琥珀のリズム
笑いと歌が 混ざり合うリズム
「乾杯だ!」って 誰かが叫べば
物語ごと火がつく Tonight
剣の傷さえ 勲章になる
語るほどに熱を帯びて
この瞬間を刻み込めば
伝説はここから始まる
さあ歌え!杯掲げて
英雄讃歌 響かせて
Clap Your Hands, Stomp Your Feet
夜が弾けるこの場所で
もっと騒げ!声を重ねて
祝勝の鐘 鳴り渡れ
飲めや踊れや 止まらない
この宴は終わらない』
祝福と歓声と笑顔が入り混じる。
この大宴会は夜明けまで続いた。




