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Episode.74 龍牙の真髄

黒煙と炎が立ち込める王都。

その中心に――“厄災”は立っていた。

巨大な黒い躯体。全てを見下ろす黄金の瞳。

“破滅の黒龍”。

その存在だけで、空気が押し潰される。


「……はぁ……」


シアが息を吐く。

その顔には、これまでにない緊張が浮かんでいた。


「普通のSSランクだったらさ〜……」


ぽつりと呟く。


「私でも“勝負”にはなると思うんだけどな〜……」


黒龍を見上げる。


「……あれ、完全に超えてるでしょ」


その一言に、誰も否定できなかった。

ルミナスも目を細める。


「瘴気の影響……身体能力も再生力も異常値だね……もはや災害だよ」


――勝てない。

その現実が、じわじわと広がる。

だが――


「……それでも」


ミリアが一歩、前に出た。

その瞳に、迷いはない。


「ここで止める」


静かな声。

だが、その一言が空気を変えた。


「守るって決めたから……」


剣を構えたミリアに光が宿る。


「だから――」


一歩踏み出す。


「こんなところで、終わらせない」


「行くよ!」


シアが先に動く。


「援護するわ!」


ルミナスが魔力を高める。


「リリシアちゃん、後方支援お願い!」


「は、はいですぅ!」


連携。

それぞれが役割を果たす。


黒龍が動く。

巨大な爪が振り下ろされる。


「速い……!」


シアがギリギリで回避する。

その動きですら、追いつかれそうになる。


「――焼き払って」


ルミナスの魔法が放たれる。

爆炎が黒龍を包む。

だが――


「効いてない……!」


煙の中から、無傷の黒龍が現れる。

再生――いや、それ以上の“耐久”。

ミリアが息を吐く。


(普通じゃない)


分かっている。

だから――


「――"龍牙"」


呼吸が変わる。

血が巡る。

全身の感覚が研ぎ澄まされる。


「壱ノ太刀(いちのたち)――」


踏み込む。


「――"牙嵐(がらん)"」


――爆風と共にミリアが消えた。

次の瞬間、無数の斬撃が黒龍を襲う。


ガガガガガガッ!!


鱗が砕ける。

血が飛ぶ。


「効いてる……!?」


誰かが叫ぶ。

初めての、明確なダメージ。

だが――黒龍の傷が、蠢く。

肉が再生し、鱗が戻る。


「……やっぱり」


ミリアは息を整える。


「簡単じゃないね……」


次の瞬間――

黒龍の尾が振るわれた。


「っ!?」


シアが吹き飛ぶ。


「きゃあっ!」


壁に叩きつけられる。


「シア!!」


ミリアの叫び。

さらに――


「ぐっ……!」


ルミナスも爪で弾き飛ばされる。

地面を転がる。


「強すぎる……」


立ち上がるが、明らかに消耗している。

戦線が崩れる。

――このままでは、押し切られる。


「ミリアさんっ……!」


リリシアが震える声で呼ぶ。

その手は、まだ杖を握っている。


「大丈夫……」


ミリアは振り返らずに言う。

その一言に、リリシアの震えが止まる。


黒龍が再び飛び上がる。


「まだ飛ぶ気!?」


「させない!」


ミリアが壁を駆け上がり――飛んだ。

一気に距離を詰める。


「弐ノ太刀(にのたち)――」


身体を捻りながら斬撃を繰り出した。


「――"翼刃赫(よくじんかく)"!!」

赤い軌跡の斬撃。

黒龍の翼を深く裂く。


「グォォォォ!!」


悲鳴。

巨体がバランスを崩す。


ドォォォォォン!!


地面へ叩きつけられる。


「今だ!!」


誰もがそう思った。

――勝てる。

その瞬間。

黒龍の身体が、黒い瘴気を噴き出した。


「なっ……!?」


傷が、再生する。

それどころか――


「強くなってる……!?」


圧が増す。

存在そのものが、さらに重くなる。


「……ふざけてるでしょ……」


ルミナスが呟く。

絶望が、更新される。


ミリアは静かに目を閉じた。

呼吸。

心臓の音。

仲間の気配。

燃える街。

――全部、見えている。


(父さん、母さんから背負った願い...。力に変える、今ここで!)


目を開く。

その瞳は、決まっていた。


「もう、誰も死なせない」


一歩、前へ。


「だから――」


龍牙が、さらに深く発動する。

血流が加速する。

限界を超える。

そして全身に光の魔装を纏う――。


「ここで、終わらせる」


黒龍が咆哮を上げ、突進してくる。

世界が揺れる。

だが――

ミリアは、止まらない。

踏み込み、交差。

すれ違いざまに――


「"龍牙"伍ノ太刀(ごのたち)――」


一閃。


「――"亜切屠(あぎと)"」


静寂。

次の瞬間――

黒龍の首が、滑るように落ちた。


――ドサリ。


巨体が、崩れ落ちる。

誰も、動けなかった。

再生は――しない。

完全な、死。


「……は?」


誰かが呟く。


「嘘だろ……」


「倒した……?」


空気が止まる。

そして――


「勝ったぞォォォォ!!」


歓声が、爆発した。


ミリアはその場に立ち尽くす。

荒い呼吸。

全身が悲鳴を上げている。

それでも――

剣を握り続けていた。

ゆっくりと振り返る。

遠くに、リリシアの姿が見えた。


「リリシア!」


声をかける。

――反応がない。


「……?」


もう一度。


「リリシア!」


それでも――動かない。

胸がざわつく。


「リリシアッ!!」


叫ぶ。

その瞬間――


「は、はいですぅ!?」


ようやく、反応した。

少し遅れて。


「……どうしましたぁ?」


ミリアは一瞬、言葉を失う。


「……なんでもない」


小さく息を吐く。


「……やったね」


「はいですぅ……!」


リリシアが笑う。

その笑顔は、いつも通りだった。

――だが。

ミリアの胸には、小さな違和感が残った。


こうして“破滅の黒龍”は討たれた。

そして――

一人の少女が、新たな名を得る。

“龍殺しの英雄”

ここに一人の英雄が誕生した――。

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