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Episode.73 破滅の顕現

――ゴォォォォォォォォォォォッ!!


黒龍の咆哮が、天地を震わせる。

空が、歪む。

その巨大な翼が一度はためくだけで、暴風が城門一帯を吹き荒らした。


「……来るぞ!」


誰かが叫ぶ。

黒い巨体は、ゆっくりと――

だが確実に王都へと進路を取っていた。


「あちゃ〜、まずいね……これはさすがにまずいよ〜……!」


シアが珍しく焦った声を上げる。

その表情には、先ほどまでの余裕はない。


「……あれは、止められないわね」


クレアも顔をしかめる。


「飛ばれたら手出しできない……!」


キースが歯を食いしばる。

空中を自在に飛ぶSSランクの存在。

――手が届かない。

絶望が、じわじわと広がる。

だが――


「……リリシア」


ミリアの声が、その空気を切り裂いた。


「えっ……?」


「あれ、撃ち落としてくれる?」


一瞬、時間が止まる。


「む、無理ですよぉぉ!!?」


リリシアが半泣きで叫ぶ。


「相手あれですよ!?あれ!!」


指差す先には、空を覆う黒い災厄。


「む、むりむりむりですぅ〜!!」


だが――


「……いいじゃん」


静かな声が割り込む。

ルミナスだった。


「私もやるよ」


「え……?」


リリシアが目を見開く。

ルミナスは真っ直ぐ黒龍を見据えていた。


「リリシアちゃん...あなた、一人じゃないでしょ?」


その言葉に、リリシアの震えが一瞬止まる。


「……っ」


「合わせて。私の魔法に」


ルミナスは杖を構えた。


「失敗は許されないよ?」


リリシアはぎゅっと目を閉じる。

そして――


「……や、やりますぅ……!」


覚悟を決めた。


その時――

黒龍が再び咆哮を上げる。


――ゴォォォォォ!!


その音に呼応するように、地上の魔物たちが狂った。


「うおっ!?なんだこいつら……!」


「さっきより速いぞ!!」


理性を失ったような突進。

防衛線が一気に押し込まれる。


「城門が持たねぇ!!」


巨大な魔物が門へ体当たりを繰り返す。


――ミシ……ミシ……


「やばい……!」


次の瞬間――


ドォォォン!!


城門が破壊された。


「侵入されたぞ!!」


魔物の群れが、雪崩れ込む。

王都内部へ。


「くそっ……!」


「総員、王都内部で迎撃!!」


戦場は、一気に広がった。


「ライガ!ゼイン!」


ミリアが叫ぶ。


「外の魔物、任せる!」


ライガがニヤリと笑う。


「任せろ!」


ゼインも軽く頷く。


「派手に暴れてこいよ、リーダー」


ミリアは頷き――


「リリシア、ルミナス!行こう!」


三人は王都へと駆け出した。


「面白くなってきたじゃん!」


シアも笑う。


「私も行こっと!」


そのまま、王都内部へ飛び込む。


城門内。

混乱と炎。

魔物と冒険者が入り乱れる地獄絵図。

その中で――

ルミナスが足を止めた。


「……ここでいいかな」


空を見上げる。

黒龍が、まだ上空を旋回している。


「合わせて」


リリシアに告げる。


「は、はいですぅ……!」


震える手で杖を構える。

ルミナスは静かに詠唱を始めた。


「――“究極魔術(アルカナ・アーツ)”」


空気が変わる。

魔力が、収束する。

巨大な魔法陣が空に浮かび上がる。


「“裁きの(ジャッジメント・)神雷(スパーク)”」


王都の上空に雷鳴が轟いた。

天が裂ける。


「ひぃっ……!」


リリシアが目を見開く。


「今よ!」


「は、はいっ!」


必死に詠唱する。


「――雷槍(サンダー・スピア)!!」


雷の槍が放たれる。

そして――

天空から、神罰のような雷が落ちた。


――ドォォォォォォン!!


黒龍に直撃。

同時に、下からの雷槍が翼を貫く。


「――グォォォォォォ!!」


黒龍が大きくよろめいた。

高度が落ちる。


「今だ!!」


ミリアが地を蹴る。

爆発的な加速。

その時――


「ミリア!」


シアも同時に走り出していた。

一瞬の視線。

言葉はいらない。

二人は同時に跳躍した。

交差しながらの斬撃。


「――はぁっ!!」


二つの軌跡が、黒龍の身体を切り裂く。

鱗が砕け、血が噴き出す。


「やった……!」


だが――


「……え?」


シアが目を見開く。

黒龍の傷が――塞がっていく。

翼の穴も、切り傷も。

瞬く間に再生した。


「……嘘でしょ……」


その異常な再生力。

黒龍は再び羽ばたき――城門の上へと降り立った。

ドォン、と大地が揺れる。

そして――


「――――――ッ!!!」


咆哮。

次の瞬間――黒い炎が吐き出された。


「伏せろォォォ!!」


爆炎。

建物が吹き飛び、炎が広がる。


「街が……!」


王都が、燃え始める。

さらに――

魔物たちが狂ったように暴れ出した。


「なんだよこれ……!」


「止まらねぇ!!」


完全な暴走。

地獄だった。

黒龍が冒険者たちを見下す。

圧倒的な存在感が場を支配する。


「……っ」


リリシアが震える。


「大丈夫」


ミリアが静かに言う。


「無理に前に出なくていい」


周囲を見渡す。


「隠れながら、援護を」


「……はいですぅ……!」


リリシアは必死に頷いた。


その時――


「行くよ!!」


シアが飛び出す。


「私も!」


ルミナスも続く。

二人が同時に黒龍へ迫る。


「はぁぁぁ!!」


斬撃。

魔法。

だが――

黒龍の爪がそれを弾いた。


「っ!?」


続けざまに牙。

間一髪で回避するが――


「きゃっ!?」


尻尾の一撃により、二人とも吹き飛ばされる。


「……ぐっ……!」


ルミナスが立ち上がる。


「強すぎる……」


シアも歯を食いしばる。


「これ、ちょっと……無理かも……」


圧倒的だった。

次元が違う。


ミリアはその光景を見て――静かに前に出た。


「ミリア……?」


剣を構える。

光が、宿る。


「私がやる……」


その声に、迷いはなかった。

黒龍が、こちらを見下ろした。

破滅と、対峙する少女。

戦いは――これからだ。

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