Episode.69 一筋の光
荒れ果てた王都グランディアの上空に、黒き雲が渦を巻く。
大地は裂け、建物は崩壊し、空にはただ一つ――絶望の影が浮かんでいた。
この世の理を覆そうとする存在。
光の魔装を纏うアルト。
蒼き刃を握るクロード。
そして剣に炎を纏う男――ルーカス。
貴族の冒険者にして、アルトの最大のライバル。
「行くぞ、田舎者!」
「言われなくても!」
「二人とも……頼もしいぜ……」
三人が同時に地を蹴った。
クロードの剣が青い炎と雷の閃光を走らせる。
「“蒼閃・双炎雷刃ッ!!”」
その刃が魔神の装甲を裂き、爆ぜるような衝撃が周囲を駆け抜けた。
「これで魔力空っぽだ……あとは頼む……」
クロードはその場で倒れ込んだ。
続いてルーカスが跳び上がり、赤い魔力を纏った剣を振り下ろす。
「魔纏解放――紅蓮断空!!」
ルーカスの魔装が解放され、剣に熱が圧縮される。
ルーカスの炎は魔神の片翼を空間ごと焼き落とす。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
片翼を失った魔神はそのまま地上に落下する。
落下地点にはアルトが待ち構えていた。
アルトは二人の動きを見計らい、光の魔装を展開した。
「光武一閃ッ!!」
光の刃がクロードが開けた装甲の狭間に放たれ、魔神を穿つ。
まさに、三位一体の連携。
呼吸を合わせ、互いの隙を補い、ただ一つの敵へと挑む。
しかし――魔神は、まだ終わってはいなかった。
「この力……勇者の残滓などに、敗れるものかァ!!」
漆黒の魔力が爆発する。
吹き荒れる衝撃波が地を砕き、三人を弾き飛ばす。
魔神の腕が伸び、黒い槍が形を成す。
それはまっすぐに――アルトを狙って放たれた。
避ける間もない。
光の魔装を纏った剣を構えようとするが、間に合わない。
――その瞬間。
ガキィィィン!!
鋼の音とともに、アルトの前に立った影があった。
「ルーカス……!?」
黒い槍が、ルーカスの腹を貫いていた。
鮮血が地に滴り、ルーカスは苦笑を浮かべる。
「ぐっっ!!がはぁ……」
ルーカスは大量の血を吐き出し、膝をついた。
「ルーカス……お前……!」
「ふっ……お前が……死んだら……誰と勝負すればいい……?」
アルトが駆け寄る。
「喋るな! 傷が――」
ルーカスは手で制し、荒い息をつきながら笑った。
「貴様の……魔装が……頼りだ、田舎者……。
なんとかしろよ……!」
アルトの胸に熱いものがこみ上げる。
震える拳を握りしめ、立ち上がった。
「わかった……絶対に、勝つ。
だから――死ぬなよ、ルーカス!!」
アルトは深く息を吸い、燕武の構えを取る。
その流麗な動きは、風そのもの。
そして“龍牙”の呼吸法を重ねた。
筋肉が鳴り、血流が駆け巡る。
その身は限界を超えて燃え上がるように輝く。
「これが……みんなの力だ……!!!」
魔神が咆哮し、闇の奔流を放つ。
アルトの全身が光に包まれ、魔装が完全覚醒する。
「魔纏解放――天下夢想ッ!!!」
燕の如き速さで闇を裂き、龍の如き力で突き抜ける。
光と闇がぶつかり合い、轟音が世界を震わせる。
『魔纏解放――天下夢想』発動中はアルトが想い描いた力を実現する、無慈悲な力。
そして――最後に押し切ったのは、アルトだった。
圧倒的な力が閃光となり爆ぜた。
そして魔神の胸を貫いた。
「……っ!!バカなッ! こんなことが……」
魔神が膝をつき、光の粒となって崩れ落ちる。
その向こうで、暗雲の隙間から陽光が差し込んだ。
アルトは息を切らしながら剣を構え続ける。
クロードが肩を叩き、微笑む。
「……よくやった、アルト」
アルトは振り返り、倒れ込むルーカスのもとへ駆け寄った。
「……ルーカス、しっかりしろ!」
ルーカスは微かに笑い、かすれた声で呟く。
「チッ……騒ぐな、田舎者……。
貴様より早く死ぬなど、僕のプライドが許さない……」
その言葉に、アルトは静かに苦笑いした。
光が、崩れた王都を照らしていた。
まるで――再生の夜明けのように。
次回、第二章 『英雄の旅路』完結です!




