Episode.68 死闘
王都グランディアの空を覆う、黒雲。
燃え上がる炎の中、かつて栄華を誇った街は、
もはや地獄の様相を呈していた。
王城は半壊し、塔の上空には“それ”が立っていた。
――魔神バルゼオス。
最初は禍々しい怪物のような姿だったが、次第にその輪郭は変わり始める。
翼が消え、黒い鎧に包まれた人型の影が現れる。
長い黒髪、紅い双眸、そして額には禍々しく光る刻印。
「愚かな人間どもよ……千年を経てもなお、学ばぬとはな」
低く、重く、空間を震わせる声。
その存在だけで、空気が焼けつくようだった。
アルトとクロードは瓦礫の上に立ち、構えを取った。
全身は傷だらけ。それでも――立つ。
クロードが息を整え、剣を肩に担ぐ。
「アルト、俺が前に出る。
お前は隙を見つけて、あいつの核を狙え。」
「わかった……でも無茶は――」
「俺は無茶しかできねえ性分なんだよ!!
魔纏解放――疾風迅雷!!」
クロードの雷属性の魔装が解放される。
バリバリと音を立てて、爆発的な魔力の奔流が流れる。
クロードが一瞬で間合いを詰めた。
魔神の剣とぶつかり、凄まじい衝撃が炸裂する。
黒と青白い光、闇と雷の閃光が空を裂いた。
魔神は片腕を振り抜き、空間ごと切り裂くような斬撃を放つ。
クロードは身をひねってかわし、カウンターで腹部に雷の刃を叩き込む。
魔神はすかさずクロードに反撃をしようとするが、
一瞬痺れでタイミングをずらされた。
「ほう……この私の動きを読んだ上に、
この身体を一瞬麻痺させる程の魔力……」
魔神の口元がわずかに笑う。
その瞬間、クロードの足元から黒い杭が突き出した。
「――ッ!」
間一髪で跳躍するも、右脚に傷を負う。
アルトがその隙をついて背後から魔装を纏った一撃を放つ。
「――光武一閃!!」
光の刃が魔神の背中を貫き、火花が弾ける。
だが、魔神はまるで痛みを感じていないかのように振り返った。
「面白い……貴様の光、確かに“勇者の系譜”を感じるな……」
アルトの胸がざわめく。
「全然効いてない……」
言い終える前に、魔神の拳が炸裂した。
アルトの身体が吹き飛び、瓦礫に叩きつけられる。
「アルトォォ!!」
クロードが駆け寄ろうとするが、魔神が手を翳すと、
地面から無数の黒鎖が現れ、彼の体を縛り上げた。
「人間風情が、私に刃向かうなど千年早い」
クロードが歯を食いしばり、全身に力を込める。
剣に青白い光が宿る。
封印級の魔力を解放する、クロードの奥義――
「――“天穿・星墜”!!」
鎖を破り、天を裂くような斬撃が魔神を包んだ。
爆音とともに王都の空が閃光に染まる。
しかし、光が消えると、魔神は無傷のままそこに立っていた。
「今のは見事だ。だが――“力”が足りぬ」
魔神が掌をかざすと、黒い雷が奔る。
クロードの身体が弾き飛ばされ、地面を転がった。
「……っぐ……」
(魔纏解放も解けちまった……。ここまでか……)
アルトが立ち上がり、血を吐きながらも前へ進む。
「はぁ……はぁ、まだ、終わってない……」
魔装が再び光を放ち、全身が黄金に輝く。
光の翼のような残光を背に、アルトは叫ぶ。
「これが……これが勇者の光だァァァッ!!」
魔神の胸を目がけ、突進。
衝突の瞬間、爆風が走り、視界が白に染まる。
――光が消えた。
アルトは地面に膝をつき、呼吸が乱れていた。
クロードも血を流しながら横たわっている。
魔神はゆっくりと歩み寄る。
「終わりだ。人の希望など、儚き夢に過ぎぬ」
その瞬間――空気が震えた。
上空から、燃え上がるような赤いオーラが降り注ぐ。
その中から、一本の剣が魔神を突き抜けた。
「ぐぬぁっ!!……」
剣はそのまま地面に突き立った。
ズドォォンッ!!
そして、剣を掴み立つ一人の男。
燃えるような眼光を携えた、高貴な冒険者――
「……遅れて悪かったな」
アルトが顔を上げる。
「ルーカス……!」
ルーカスは剣を肩に担ぎ、静かに魔神を睨む。
「さぁ……続きをやろうか、“魔神”!
僕の熱が冷めないうちに……!!」
燃え上がる炎と闇が交錯する。




