Episode.61 夜明けの旅立ち
灼熱の風が吹く砂の国サラスキア。
神殿での死闘を終えたアルトたちは、砂塵に包まれた街へと帰還した。
魔族ヴァルゼスが語った“刻印の魔物を量産する計画”――
それが魔神復活のためだと知り、気の抜けない日々が続いていた。
「アーティファクトを完成させるには、残りの素材を集めないと……」
アルトが地図を広げ、真剣な表情で呟く。
ラシードが腕を組み、落ち着いた声で問う。
「次はどこへ向かうつもりだ?」
「エルフの里で“世界樹の葉”は手に入れた。
残る素材は“東国の翡翠”と“龍姫の血”」
アルトが言葉を繋げたその時――ツバキが勢いよく口を挟んだ。
「だったら次は東国だな!“翡翠”なら私の故郷にあるはず!」
リナが驚いたように目を丸くする。
「えっ、ツバキの故郷って東国なの?」
「ああ。“桜霞の国シエン”。
昔から“翡翠の霊石”っていう聖宝が祀られてるって言い伝えがあるんだ」
誇らしげに胸を張るツバキに、アルトは頷いた。
「よし、次は東国シエンだ。翡翠の霊石を探しに行こう」
セシリアは微笑みながら言う。
「桜霞の国……美しい響きだわ。異国の文化も楽しみね」
ラシードが腕を下ろし、ゆっくりと息を吐いた。
「……東国か。長い旅になるな」
そして、穏やかながらもどこか師としての
厳しさを滲ませて言葉を続けた。
「だが、ここから先はお前たち自身の力で進め。
俺とナディアは、この国を守らねばならん」
アルトはしばらく黙っていたが、やがて深く頭を下げた。
「……本当にありがとう。
ここまで来られたのは、ラシードとナディアのおかげだ」
ナディアが柔らかく微笑む。
「あなたたちはもう立派な冒険者よ。
これからは自分の信じる道を歩みなさい」
ジークがその場に立ち上がり、頭に巻いた黒いバンダナを直す。
「俺は領主のところに戻る。……無事でな」
短くそう言って背を向けた。
彼の背中を見送りながら、アルトは静かに拳を握る。
「ありがとう、ジーク」
◆◆◆
翌朝――夜明け前。
薄明の空に星がまだ瞬く中、アルトたちは旅支度を終え、
砂の街の門前に立っていた。
その前に、ラシードとナディアの姿があった。
ラシードは腕を組み、少し寂しげに笑う。
「……まったく、弟子を見送るってのは妙な気分だな」
アルトが笑いながら答える。
「もう立派な師匠だよ、ラシード」
「そうか? なら、師匠らしく言っておく」
ラシードはアルトの肩を軽く叩いた。
「困った時は、遠慮せずに連絡をよこせ。
砂の国の風が届く限り、助けてやる。
……そして、また会おう。
弟子の成長をこの目で見届けたいからな」
アルトの胸に熱いものがこみ上げる。
「……もっと強くなって、また会いに来るよ」
ナディアも優しく言葉を添える。
「風が東へ吹く時、あなたたちの行く道を導いてくれるはず。
どうか、無事で」
リナとセシリアが深く一礼し、ツバキはにかっと笑って親指を立てた。
「あとは任せろ!私が道案内だから、迷うことはない!」
ラシードは笑いながらうなずいた。
「頼もしいな。じゃあ行け、お前たち。
お前らの旅路に、幸運があらんことを」
朝の光が砂の国を照らし出す。
アルトたちは振り返り、ラシードとナディアの姿を胸に焼き付けた。
◆◆◆
砂漠を越え、荒野を抜け、草原を渡り、深い森を進む。
昼は灼熱、夜は冷気。過酷な旅の中、
仲間たちは互いを支え合いながら進んでいった。
リナは風魔法で砂嵐を払い、セシリアは水の魔法で喉を潤し、
ツバキは軽やかに先陣を切る。
そして――数週間後。
朝霧の立ちこめる森を抜けたその先、桜色の霞に包まれた国が姿を現した。
アルトが目を細める。
「……あれが、桜霞の国"シエン"」
ツバキが嬉しそうに微笑む。
「ようこそ、私の故郷へ!」
薄紅の風が吹き抜ける。
旅の新たな舞台――桜霞の国が、今幕を開けようとしていた。




