Episode.54 決勝戦
観客の熱狂が渦を巻く中、アルトとルーカスが対峙する。
「さあああ! ついにこの瞬間がやってきました!
宿命のライバル対決――アルト VS ルーカス!」
ルーカスは黒い衣を翻し、冷ややかな笑みを浮かべた。
「アルト、ここまで来ただけでも誉れだろう。
だが優勝はこの僕だ」
アルトは深呼吸し、剣を構える。
「勝つのは俺だ……!」
鐘が鳴り響き、決勝戦が幕を開けた。
ルーカスの一撃は重く、速かった。
剣戟に炎を纏わせ、次々と畳みかけてくる。
「おっとー! ルーカス選手、
いきなり炎属性の魔法を絡めた怒涛の剣戟だぁぁ!
隙がないっ!」
アルトは必死に捌くが、押される一方。
剣と剣が交わるたび、火花と炎が舞い、観客から悲鳴混じりの歓声が上がる。
「くっ……!」
額から汗が流れ落ちる。足は後退を余儀なくされる。
ルーカスの瞳には勝利の確信が宿っていた。
「どうした、アルト! 僕の炎に焼き尽くされろ!」
炎が剣筋に混ざる。
横薙ぎの一閃と同時に炎の壁が立ち上がり、アルトの退路を断つ。
四方八方を赤々とした炎が包み込んだ。
「アルト選手、追い詰められたぁぁ! 逃げ場がないっ!」
その熱気の中で、アルトはふと剣を構える姿勢を正す。
脳裏に蘇るのは帝都での日々――副団長クラリスとの苛烈な修行。
(クラリス副団長の剣は……こんなものじゃなかった……!)
アルトの瞳が鋭く光る。
迫るルーカスの剣戟を、次々と受け流し始めた。
炎の刃すら、恐れず切り裂いていく。
「な、何だと……!?」
ルーカスの表情に焦りが走る。
だが彼は次の一手をためらわなかった。
「これで終わりだぁぁぁ!」
天へ掲げた剣に魔力を集中させ、巨大な炎の魔法を生み出す。
それはまるで太陽の塊のように輝き、アルトへと放たれた。
「きたぁぁぁ! ルーカス選手の大技、炎帝の剣だぁぁ!」
観客が総立ちとなる。誰もがアルトの敗北を確信した。
――だが。
「まだだっ!」
灼熱の炎を切り裂くように、一人の影が突っ込んでくる。
観客が一斉に息を呑んだ。
「な、なんと!? 炎の中からアルト選手が現れたぁぁぁ!」
ルーカスの目が見開かれる。
「馬鹿な……! 自分の身を焼き捨ててまで……!」
アルトは叫びながら渾身の一撃を叩き込む。
剣と剣がぶつかり合い、轟音が闘技場に響く。
――ガキィィン!
「おおおっと! 両者、譲らぬ渾身の一撃!」
しかし、ルーカスはすぐさま至近距離で魔法を放った。
「終わりだぁ!」
爆炎がアルトを飲み込もうとした――が、その瞬間。
「まだだぁぁぁっ!」
アルトはルーカスの体を支点にして跳ね上がり、空中で一回転。
背後へと回り込み、剣をルーカスの首筋へ突きつけた。
「しょ、勝負ありぃぃぃ!」
実況の絶叫と同時に、観客席が割れんばかりの大歓声をあげる。
「優勝は――アルト選手だぁぁぁぁぁ!」
リナが涙ぐみながら両手を叩き、王女セシリアは目を輝かせて立ち上がった。
舞台の中央で荒い息をつきながら、アルトは剣を高く掲げた。
歓声は地鳴りのように鳴り響き、武闘大会の栄光は一人の冒険者へと降り注ぐ。
喧騒が静まり始めた闘技場の控室。
勝利の熱気がまだ漂う中、アルトは椅子に腰を下ろし、汗を拭っていた。
そこへリナとセシリアが駆け寄ってくる。
「アルト! 本当にすごかったよ!」
リナが笑顔で手を握る。
「最後の炎の中を突っ切ったとき、心臓止まるかと思いましたわ……」
セシリアは胸を押さえながらも、誇らしげに微笑む。
アルトは苦笑しながら息を整えた。
「正直……もう立ってるのがやっとだ。
でも、負けるわけにはいかなかったからな」
その時、控室の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、ルーカスだった。
「……勝ったと思うなよ、アルト」
言葉とは裏腹に、その瞳にはわずかな笑みが浮かんでいた。
「今回は負けを認めてやる。だが――次は絶対に負けない」
アルトも立ち上がり、真っ直ぐに彼を見返す。
「望むところだ。また戦おう、ルーカス」
一言言うとルーカスは背を向けて去っていった。
そして夕暮れ。
闘技場の奥、重厚な扉の先――
そこには優勝者だけが招かれる“賢者の間”があった。
中央の玉座に座っていたのは、銀髪を後ろに束ねた長耳の老人。
目尻には深い皺が刻まれているが、その瞳には千年を超える叡智と悪戯心が宿っていた。
「来たか……武闘大会の優勝者よ。
若いが、なかなか骨があるのう」
老人は愉快そうに笑い、ワインを掲げた。
「久々に面白い戦いを見せてもらった。
さて、褒美の時間じゃ。――何を知りたい?」
アルトは一歩進み出る。
「“刻印の魔物”を封じるアーティファクトの作り方を教えてほしい」
老人は目を細めた。
「ほう……やはりそこにたどり着いたか。
よいぞ、教えてやろう」
彼はゆっくりと立ち上がり、手をかざす。
宙に五つの光球が浮かび上がった。
「アーティファクトを錬成するには五つの素材が必要じゃ。
一つ、古代都市アルバに眠る《蒼光の宝玉》。
二つ、エルフの里が護る《世界樹の枝》。
三つ、伝説の存在《龍姫の血》。
四つ、砂漠の神殿に隠された《紅蓮の宝石》。
五つ、東国にのみ産する《翠玉の翡翠》。
――これらを錬金術により融合させるのじゃ」
アルトは真剣な表情で聞き入り、深く頷いた。
「……ありがとうございます」
老人はくつくつと笑い、椅子に腰を戻した。
「礼などいらん。わしはただ“楽しいこと”が好きなだけじゃ。
次はもっと面白い戦いを見せてくれよ、若者」
◆◆◆
翌朝。戦士の国の街門前。
アルト、リナ、セシリアの三人が旅支度を整えていた。
「次は……古代都市アルバ、か」
「距離もあるし、馬を調達しないとね」
そこへ、甲高い声が背後から飛んできた。
「なんだ、もう行くのか?」
振り返ると、そこにはツバキが立っていた。
腰には刀を差し、風に揺れる髪の間から鋭い瞳が覗く。
「ツバキさん!」
リナが驚いて声を上げる。
ツバキは微笑み、腕を組んだ。
「良い戦いだったな!あの一太刀、忘れんぞ!
……わたしはこれから武者修行の旅に出る。
いつかまた、手合わせをしよう!」
アルトも笑って頷く。
「ああ、次も負けないよ」
ツバキは静かに頷き、背を向けて歩き出した。
その背中が人混みに消えるまで、アルトは無言で見送った。
馬の嘶きが朝霧に響く。
三人はそれぞれ馬にまたがり、遠く広がる地平を見つめた。
「長い旅になりそうね」
「でも、ここまで来たんだ。きっと辿り着ける。」
アルトは手綱を握りしめ、力強く前を見据えた。
「行こう。古代都市アルバへ――!」
朝日が三人を照らし、戦士の国を背にして彼らの新たな旅が始まった。




