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Episode.53 武闘大会

熱狂の渦に包まれた闘技場。

群衆の歓声が天へと突き抜ける中、アルトは剣を構えて舞台中央に立っていた。


「さあ、注目の準決勝!

 西方からの新星、田舎育ちの冒険者アルト選手が、

 ここまで怒涛の快進撃で見事勝ち進んできました! 対するは――」


実況の声が響いた瞬間、会場の空気が一変した。


「東国からやってきた孤高の女剣士――ツバキ選手!」


すらりと舞台に現れたのは、漆黒の和装をまとった侍姿の女剣士。

長い黒髪を後ろで結い、鋭い眼差しでアルトを射抜く。

その腰には東国の刀。

鞘に納められているにも関わらず、観客たちはその刃の冷たい輝きを感じ取った。


「アルト選手、ここが正念場!相手は抜刀術の達人。

 間合いに踏み込んだ瞬間、首が飛ぶぞおお!」


「うおおおおおおおおおお!!」


武闘大会終盤となり、歓声が最高潮に達する。


「さぁ、皆様!大変お待たせいたしました!

 武闘大会準決勝、試合開始ぃぃ!!」


実況の叫びと同時に、試合開始の鐘が鳴る。


――キィン!


一瞬、風が裂けた。

ツバキの刀が鞘から閃光のように放たれ、アルトの頬をかすめる。

わずかに遅れて観客が息を呑んだ。


「おおっと! 開始早々、紙一重の斬撃!

 アルト選手、ギリギリでかわしたぁぁ!」


アルトは後退しながら汗を滲ませた。


(速い……! 抜かれた瞬間には、もう斬られている!)


ツバキは静かに刀を納めると、間合いを測るようにじりじりと歩を進める。

アルトは距離を取ろうとするが、その目に宿る闘志は消えない。


「はっ!どうした? 入ってこないのか?」


ツバキの声は挑発的だった。

観客の声援が飛ぶ。


「がんばれアルトー! 負けるな!」


「ツバキさまぁぁ! 斬ってしまえー!」


劣勢は明らかだった。

アルトは攻め手を見つけられず、ただ間合いの外で揺さぶられているだけ。


(このままじゃ勝てない……。やるしかない!)


アルトは深く息を吸い込み、意を決して踏み込んだ。


「おおっと!? アルト選手、まさか自ら間合いに入ったぞ!」


――刹那。 ツバキの刀が稲妻のごとく閃く。


「遅い!」


その瞬間、アルトは剣を身体の側面に滑り込ませ、ギリギリで刃を弾いた。

甲高い音が響き渡り、観客席がどよめく。


「な、なんとおお! 抜刀術を弾いたぁぁ!」


刀を逸らされたツバキの動きにわずかな隙が生まれる。

アルトはすかさず切り込んだ。

しかし、ツバキは驚異的な反応速度で鞘を使い、腕と共にガードする。


「甘い!」


それでもアルトは攻めを止めなかった。

自らの剣を上空へと投げ放ち、両手で椿の腕と鞘を掴む。


「なにっ!?」


次の瞬間、アルトは体をひねり、背負い投げを放った。


――ドンッ!


ツバキの体が地面に叩きつけられる。観客が総立ちになった。


「す、すごいぃぃぃ!アルト選手、まさかの背負い投げだぁぁ!」


抑え込んだまま、上空に投げた剣が落ちてくる。

アルトは素早くそれをキャッチし、ツバキの首元に突きつけた。


「勝負ありいぃぃぃ!」


実況の声と同時に、闘技場は爆発するような歓声に包まれた。


「アルトぉぉ! アルトォォ!」


「まさかの逆転劇だぁぁ!」


荒い息をつきながら立ち上がるアルト。

ツバキは地面に伏したまま、悔しさと共に小さく笑った。


「……見事だ」


その言葉を聞き、アルトは深く一礼する。


「準決勝、勝者――アルトォォ!」


観客の熱狂は頂点を迎えた。

準決勝を終えたアルトは控室へ戻り、水を口に含んで喉を潤した。

リナが駆け寄り、汗を拭いてくれる。


「アルト、すごかったよ……! でも、体は大丈夫?」


「平気だ。けど……次はもっと厄介だな」


そう呟いたアルトの視線の先、

観客席からは決勝を待ちわびる熱気が伝わってくる。

休憩の間にも、観客たちは名前を叫び、次なる戦いを求めてやまない。

やがて鐘が鳴り響き、決勝戦の時が訪れた。


「さあ、ついに決勝戦だぁぁ! 待ちわびた宿命の対決!

 挑むはアステル領主の息子にして天才剣士――ルーカス!」


黒き衣をまとったルーカスが舞台に姿を現し、冷笑を浮かべる。


「やっとここまで来たか、田舎者。だが決勝の舞台は、僕が主役だ」


アルトは汗をぬぐい、剣を握り直した。


「そう簡単にいくと思うな。今度こそ、俺が勝つ!」


「それではお待ちかね! 決勝戦開始ぃぃぃぃ!」


実況の咆哮と共に、観客席の熱気が爆発する。

運命の決勝戦が、今、幕を開けようとしていた――。

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