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Episode.52 王宮の謁見

クロードに導かれ、アルトとリナは王都の中心にそびえる

白亜の王宮へと足を踏み入れた。

高く伸びる尖塔、黄金の装飾が施された大扉、

赤い絨毯がまっすぐに玉座へと伸びている。

荘厳な雰囲気に、二人は自然と背筋を正した。


謁見の間に入ると、玉座には威厳ある王と、その隣には気品に満ちた王妃。

そしてその傍らには若き王女が立っていた。

透き通るような金髪と澄んだ瞳を持ち、年はアルトたちとそう変わらないように見える。


「遠き地より来た冒険者よ、クロードより話は聞いている。

 刻印の魔物の件であろう?」


王の声は堂々と広間に響き渡った。

アルトはひざまずき、言葉を選んで答える。


「はい。帝都でも刻印の魔物と戦いました。

 今や世界各地で被害が広がっているようです」


王は深くうなずく。


「我らも承知している。だが残念なことに、

 かつて魔を封じたというアーティファクトは、

 すでにこの世には存在しない」


その言葉にリナが驚いた表情を浮かべる。

だがすぐに王妃が静かに続けた。


「ただし……錬金術によって新たに作ることは

 可能だという記録が残っています」


クロードが目を細める。


「やはり……」


王妃は侍従から古びた書物を受け取り、その一節を読み上げた。


「必要なものは――

 古代都市アルバのダンジョンに眠る秘宝。

 エルフの里にある世界樹の枝。

 龍姫の血。そして……」


一瞬、言葉を切る。


「残念ながら書物の一部は欠けており、

 残りの材料は判然としません」


王女が一歩前に出た。


「ですが、隣国・戦士の国に千年以上を生きる

 エルフの老人がいると伝わっています。

 その者なら、失われた知識を知っているかもしれません」


アルトとリナは顔を見合わせ、うなずいた。


「……戦士の国に向かえばいいんだな」


クロードも頷き、王に進言する。


「彼らなら必ず道を切り開くでしょう」


その時、不意に王女が強い声音で告げた。


「ならば、わたしも共に行きます」


王と王妃が同時に目を見開く。


「何を言う、危険すぎる!」


「その通りです、姫……王族が軽々しく命を賭けるなど――」


だが王女は一歩も退かず、瞳に強い光を宿す。


「世界が危機に瀕しているというのに、

 王族が危険を冒さずしてどうして国を導けましょう!

 わたしはただ守られるだけの存在ではありません!」


広間がざわめく中、王はやがて大きくため息をついた。


「……血は争えぬか。わかった。だが決して無茶はするな」


こうして、王女も加わり、一行は戦士の国を目指すこととなった。


◆◆◆


翌朝、王都の正門前。

陽光を浴びながら、アルト、リナ、そして王女セシリアが並んで立っていた。

その少し前でクロードが黒いマントを翻し、彼らを見据える。


「俺は刻印の魔物の対処で各地を回らねばならん。

 だが、お前たちならやれる。未来は託したぞ」


その声には確かな信頼が込められていた。

アルトは強くうなずき、拳を握りしめる。


「必ずやり遂げる!」


クロードは満足げに頷くと、背を向けて群衆の中に消えていった。


王宮が用意した立派な馬車が待機しており、三人はその中へと乗り込む。

長旅を支える柔らかな座席に身を沈めると、蹄の音とともに王都を出立した。


◆◆◆


馬車に揺られながら、自然と自己紹介の場が生まれる。


「改めて、王女殿下――」


アルトが口を開くと、セシリアはくすりと笑った。


「堅苦しいのはやめて。セシリアでいいわ。

 小さい頃から魔法を学んでいたの。

 護身程度だけれど、多少は戦えるわ」


リナは興味深そうに身を乗り出す。


「すごい……じゃあ一緒に戦えるんだね!」


「ええ。だけど、あなたたちみたいに冒険者の経験はないから、

 足を引っ張らないように頑張るわ」


会話は自然と今回の目的に移っていった。


「エルフの老人……コロッセオに入り浸ってるって話だな」


アルトが呟く。

セシリアは真剣な表情で答える。


「ええ。千年も生きているからこそ、

 今は楽しいことを求めているのでしょう。

 ただ、気難しい性格と聞いています。

 きっとただでは教えてくれないでしょうね」


馬車の窓から広がる大地を眺めながら、

三人はこれからの困難を思った。


◆◆◆


数時間の旅を経て、やがて馬車は大きく停まった。

御者が「戦士の国バルキアに到着いたしました」と告げる。

門をくぐると、街は闘気に満ちていた。


通りには筋骨たくましい戦士たちが武器を背負って歩き、

訓練場からは剣戟の音が響く。

その中心にひときわ目立つ円形の大建造物――

コロッセオがそびえ立っていた。


「まずはここね」


セシリアが頷き、三人はコロッセオに入る。

だが、老人の姿はどこにもなかった。


「仕方ないわね。私が管理者に話を聞いてくる。

 あなたたちは今後の冒険に備えて買い出しをお願い」


そう言ってセシリアは一人で管理人室へと向かっていった。

アルトとリナは指示に従い、街の店を回って食料や薬品、装備品を揃える。

戦士の国らしく、どの店も力強さを誇るような商品が並んでおり、

二人は新鮮さを感じながら荷物を整えた。

買い出しを終えてコロッセオに戻る途中――。


「久しいな、田舎者ども」


背後から響いた声に、アルトは反射的に振り返った。

そこに立っていたのは、漆黒の衣装を纏う青年――ルーカス。

かつてヴェルサスで別れた宿命のライバルが、冷ややかな笑みを浮かべていた。

その姿は以前よりもさらに自信に満ちている。


「ルーカス……!」


「ふん、こんな場所でまた会うとはな。

 ちょうどいい、アルト。

 貴様、二日後のコロッセオの武闘大会に出場して、僕と勝負しろ」


不意の提案にアルトの胸が高鳴る。

己の力を試してみたい――

そんな思いが脳裏をよぎったが、すぐに首を振った。


「今はそれどころじゃない。俺たちはやることが――」


ルーカスは鼻で笑い、挑発の言葉を浴びせる。


「負けるのが怖いだけだろう?

 田舎者が本物の戦士に敵うはずもないからな」


アルトの拳が震える。

怒りがこみ上げたが、なんとか堪えたその時――。


「二人とも、待たせたわね」


セシリアが戻ってきた。


「知り合い?」


「まぁ……ね……」


リナが気まづそうに頷いた。

セシリアはこの状況に首を傾げるが

すぐに真剣な表情になり、告げる。


「管理者に確認したわ。

 老人のエルフは、コロッセオの武闘大会で優勝した者に

 望む知識を与えているらしいの」


「なに……?」


アルトの胸に、さきほどのルーカスの言葉が重くのしかかる。

避けることはできない。

大会に出なければ目的を果たせないのだ。


「……仕方ないな。俺も大会に出場する」


アルトの決意の声に、ルーカスの口元がゆがむ。


「ふはは……楽しみだ。貴様を叩きのめす瞬間をな!」


挑発的な笑みを残し、ルーカスは背を向けて去っていった。

残されたアルトとリナ胸に、避けられぬ決戦の予感が重く響く。


◆◆◆


そして二日後――。

戦士の国の大通りは人々で溢れ返っていた。

巨大なコロッセオの観客席には熱気が満ち、空気そのものが震えている。


トーナメント方式で行われる武闘大会。

ルーカスとアルトが激突するのは、必然的に決勝戦となる組み合わせだった。


「さあ諸君! お待ちかねの武闘大会がついに始まる!」


場内に魔道具で響き渡る実況の声が、会場をさらに沸かせる。


「力と技のぶつかり合い!

 誰が勝ち残るのか――武闘大会開催だぁぁぁ!」


轟音のような歓声がコロッセオを揺らし、戦いの幕が上がる。

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