↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
50/109

Episode.49 帝国騎士団

帝都ラドム――。

その巨大な城壁を見上げた瞬間、アルトとリナは言葉を失った。

白亜の石で築かれた壁は山のように高く、門を守る兵士たちの鎧は陽光を反射して輝いていた。


「これが……帝都」


リナが小さく呟く。

アルトも喉を鳴らし、胸の奥に熱を感じていた。

アステルとも、ヴェルサスとも違う、帝国の中心に立っているのだ。

街に入ると、すぐに大通りを行進する一団と出くわした。

漆黒の外套に身を包み、槍を高く掲げた精鋭たち。

揃った足並み、鋭い眼光――その姿は威厳に満ち、群衆は息を呑んで道を開けた。


「帝国騎士団だ……!」


リナが目を輝かせる。

アルトもまた、彼らの背中を追いながら、

冒険者とは違う「国を背負う力」に心を揺さぶられていた。

その日の午後。

二人が市場を散策していると、突然通りの奥から悲鳴が上がった。


「ひったくりだ! 止めろ!」


駆け抜ける影を見て、アルトは即座に走り出した。

路地に飛び込み、追いついた瞬間、スリの腕を掴んでねじ伏せる。


「逃がすか!」


だがその直後、鎧のきらめきが視界に入った。


「ご苦労。後は我々が預かる」


現れたのは先ほどの騎士団の一人だった。

若いが凛とした雰囲気を纏い、深い黒のマントを翻していた。


「俺はエリオット、帝国騎士団の一員だ。君たち、冒険者だな?」


「そうだ。俺はアルト、こっちはリナだ」


「騎士団は帝都の治安を守るのが務めだが……

 こうして民を助ける冒険者がいるのは心強い」


その誠実な言葉に、アルトは胸の奥が熱くなるのを感じた。

だが周囲の騎士の中には、あからさまに彼らを見下す者もいた。


「規律も誇りもない冒険者風情が、我々に任せておけばいいものを……」


冷たい声に空気が張りつめる。

アルトは言い返しかけたが、エリオットが制した。


「やめろ。彼らがいなければ被害は広がっていたかもしれん」


その毅然とした態度に、アルトは強く惹かれるものを感じた。

騎士団は確かに規律の中で動く存在だが、

同じ「力を人のために使う者」であることに変わりはない。

やがて騎士団は犯人を連れ、去っていった。

残されたアルトとリナはしばらく無言だったが、リナがぽつりと呟く。


「ねえアルト……騎士団ってすごいね。冒険者とは違う強さがある」


「……ああ。でも俺たちは俺たちのやり方で強くなる。

 クロードも待ってるんだ」


二人の視線の先には、帝都のさらに奥――王都へと続く街道が延びていた。

そしてその影で、不穏な気配が静かに帝都を覆い始めていた――。


◆◆◆


帝都ラドムの夜は煌びやかだった。

塔に掲げられた松明の炎が黒い石畳を照らし、街路には人の流れが途絶えることがない。

しかし、その華やかさの裏で、帝都は不穏な噂に包まれていた。


「水路で魔物が現れた……?」


冒険者ギルドで依頼を確かめたアルトは眉をひそめた。

ちょうどその時、重い足音と共に現れたのは黒衣の騎士団だった。

漆黒の甲冑は月光を受けて鈍い輝きを放ち、その存在だけで周囲の空気を張り詰めさせる。

先頭を歩くのは、昼間知り合った若き騎士エリオットだった。


「帝都の地下水路で魔物が群れを成している。

 放置すれば市街に溢れ出す危険がある」


彼の声は低く、冷静だった。


「俺たち冒険者に、その討伐を手伝えってことか?」


アルトが問い返す。 別の騎士が鼻で笑った。


「手伝いではない。

 我々の指揮に従い、余計な真似をするな。それが依頼だ」


リナの目が鋭く光ったが、アルトはそれを制し、静かに頷いた。

今は口論よりも帝都を守ることが先決だった。

水路へ降りると、湿った空気が肺を満たした。

石造りの壁を濁った水が流れ、松明の炎が揺れるたび、闇の奥から不気味な影が伸びる。

アルトがいち早く魔物の気配に感づいた。


「来るぞ!」


突如として、水面を割って無数の魔物が這い出した。

鱗に覆われた体、鋭い爪、ぎらつく赤い目。

騎士団は整然と隊列を組み、黒い盾を構えて前進する。


「第一陣、押し返せ!」


エリオットの号令と同時に槍が突き出され、

数体の魔物が倒れる。

しかし背後から新たな群れが迫る。


「リナ!」


「わかってる!」


アルトとリナは騎士の陣形から飛び出し、刃を閃かせて魔物を斬り払った。

二人の連携は速く、的確だった。

だがその動きに一部の騎士が苛立ちを見せる。


「貴様らッ!勝手な行動を――」


その声を遮るように、巨大な魔物が水を割って姿を現した。

背丈は人の二倍、腕の一振りで石壁を砕くほどの力を持つ。


「でかい……!」


騎士団の陣形が揺らぎ、誰もが一瞬ひるんだ。

だがアルトは剣を構え、叫んだ。


「俺が行く!」


巨体の腕が振り下ろされる直前、リナが横から切り込み、その動きを止める。


「今よ、アルト!」


「おおおっ!」


渾身の力で剣を振り抜き、魔物の首を断ち切った。

水路に重い音が響き、巨体が崩れ落ちる。

息を荒げる二人を見て、エリオットが深く頷いた。


「見事だ……君たちがいなければ危なかった」


だがその直後、別の騎士が険しい声をあげた。


「見ろ、この魔物……普通の水路に現れるはずがない」


魔物の体には、何かの魔術的な刻印が刻まれていた。

誰かが意図的に呼び寄せた証拠――。


「……人の手が、裏で動いている」


エリオットの顔が険しくなる。


騎士団は魔物の亡骸を回収して去っていった。

闇に残されたアルトとリナは互いに視線を交わす。


「どう考えても……ただの偶然じゃない」


「うん。何か裏がありそう……」


帝都の水路に潜む影。刻印の魔物。

それは、やがて二人をさらに大きな陰謀へと導くことになるのだった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。