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Episode.5 雪解けの街

バルキアを出発して数日。

ミリアとライガは北の大地を越え、

氷の国『ラズハル』へと辿り着いていた。

雪解けの川が街を囲み、

白壁の建物が整然と並ぶ静かな街。

陽光を受けて、氷の装飾が宝石のように輝いている。

空気は冷たく、どこか神聖な気配すら漂っていた。


「......これが、黒霧が現れたっていう街?」


ミリアは眉をひそめ、街並みを見渡した。

人々は穏やかに行き交い、笑顔すら見える。

戦火の影も、崩壊の跡もない。


「平和そのものだな。とても“災厄の兆し”があったとは思えねぇ」


ライガは腕を組み、吐く息で白い煙を作った。

――数日前、

バルキアの酒場で聞いた情報が脳裏をよぎる。


◆◆◆


「黒い霧を見た奴を知ってる」と教えてくれたのは、

古びた外套を羽織った旅商人だった。

彼の話によると、北の国ラズハルで数日前に黒霧が現れたという。


「だが、街はまだ健在らしい」


そう言われた時、ミリアもライガも首をかしげた。

ザンガが出現した街は、例外なく滅んでいる。

それなのに、ラズハルは今も生きている――。


「どう言うことだろう......」


「おかしい話だが、調べる価値はあるんじゃねぇか?」


ライガが言い、ミリアも頷いた。

他に手掛かりはなかった。

その一言が、旅立ちの決定打となったのだ。


◆◆◆


そして今、二人はその街に立っていた。

穏やかな日常が続く中に、どこか説明できない違和感があった。


「......とりあえず、冒険者ギルドに行こう。

情報があるかもしれない」


ミリアが提案し、二人は石畳の通りを抜けて大きな建物に向かった。

ラズハルのギルドは、暖炉の明かりに照らされた温かな空間だった。

木の香りが漂い、冒険者たちの笑い声が響く。

受付に立つ女性に声をかけると、彼女は驚いたように目を丸くした。


「黒い霧のことをお聞きになりたいのですね?」


「はい。最近、この街で黒い霧を見たという話を聞いたんですが」


ミリアが答えると、受付嬢は少し顔を曇らせた。


「はい......確かに『見た』という冒険者は続出しています。

ただ、皆さん口を揃えて言うんです。

『霧は確かに見えたのに、近づくと消える』と」


「霧が......消える?」


ライガが腕を組む。


「はい。しかも、決まって夜になると現れるそうです。

場所は街の裏路地――古い倉庫の並ぶあたりだと」


ミリアとライガは顔を見合わせた。


「......真偽はともかく、確かめてみるしかないな」


「そうだね。放っておけないし」


二人はギルドを出て、日が落ちるのを待った。


夜――。

ラズハルの街が静寂に包まれる。

冷たい風が吹き抜け、

街灯の明かりが凍った石畳を照らしていた。


「......ここが裏路地か」


ライガが声を潜めた。

倉庫群が並び、人の気配はほとんどない。

闇が濃く、吐息すら白く浮かぶ。


「本当に、ここに黒霧が?」


ミリアは慎重に周囲を見渡した。

壁に貼られた古い掲示、割れた窓。

だが、霧どころか風も止んでいる。


「特に怪しいもんは何もねえな......。

 やっぱり、ただの噂――」


ライガが言いかけたその瞬間だった。


――ざわ......ざわざわ......。


空気が変わった。

背後から、低く唸るような風の音。

ミリアが振り返ると、路地の奥に“それ”が見えた。

黒い霧。

夜の闇よりも濃く、地面から湧き上がるように漂っている。

ゆらゆらと揺れながら、形を成していく――。

霧はまるで意思を持つように渦を巻き、二人の前に広がる。

その中に、うっすらと人影のようなものが浮かび上がった。


「これは......!」


ミリアの瞳が見開かれる。


「っ、来るぞ!」


ライガが構え、ミリアも剣を抜いた。

鋼の音が夜を裂く――。

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