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Episode.46 高貴な冒険者

ギルドを出ると、領主の息子を名乗る男が立っていた。


「見慣れぬ顔だな。新人か?」


漆黒の上質な衣をまとい、腰には磨き上げられた剣。

鋭い灰色の瞳が、こちらを値踏みするように細められている。

領主の息子――名家の血筋である証だ。


「領主の……!?」


リナが驚きの声を漏らす。

ルーカスは小さく鼻で笑い、アルトとリナの胸元に視線を落とした。

そこには銀色に輝く新人用の冒険者プレート。


「なるほど、貴様らも冒険者を志したわけか。だが――」


彼は口の端を歪める。


「その程度のプレートで胸を張るとは、随分とおめでたいことだな」


挑発的な言葉に、アルトの拳が自然と握られる。


「……試してみるか?」


「くく……笑わせるな、そんな木の棒で僕に勝てると思っているのか」


「アルト!」


リナが制止しようとしたが、アルトは一歩踏み出していた。


「ここで引いたら舐められる…!!」


ルーカスは薄く笑い、鞘から剣を抜いた。


「まぁいいだろう。僕も退屈していたところだ」


次の瞬間、二人の剣が交錯した。

アルトの一撃をルーカスは滑らかに受け流し、鋭い反撃を繰り出す。

力も速度も拮抗し、一歩も引かない。


「ほう、少しはやるじゃないか」


「そっちこそ!」


互いの剣が交差する度、周囲に人だかりができていく。

リナは歯を食いしばり、二人を見守った。

拮抗した勝負の最中、アルトの木剣はみしみしと音を立てる。


「――っ!!」


アルトは自分の木剣がもう持たないと察していた。

長引けば負けは確実――。

アルトは一か八か渾身の一撃を繰り出そうと振りかぶっとその時――。


「おいおい! 新人同士で街中を荒らすな!」


豪快な声が響き、クロードが人混みをかき分けて現れた。

剣を構える二人の間に割って入る。


「ここは訓練場じゃねえぞ。武を誇りたいなら正式な場でやれ」


ルーカスは剣を収め、ふっと笑った。


「なるほど……貴様、名を名乗れ!」


「……アルトだ」


「覚えておこう…、次会った時は覚悟しておけ…」


冷ややかな笑みを残し、ルーカスは背を向けた。

群衆がざわめく中、彼の黒衣が夕陽に溶けていく。


「……なんてやつだ」


アルトは深く息を吐いた。


「でも、あの人……本当に強かった」


リナも真剣な面持ちで呟いた。

クロードが肩を叩き、笑う。


「いい刺激をもらったな。だが、まだ始まったばかりだぞ」


アルトとリナは顔を見合わせ、再び歩き出した。

目指すは――装備を整えるための鍛冶屋。

夕暮れのアステルの街を、二人の影が並んで進んでいった。


◆◆◆


アステルの街の大通りを進むと、ひときわ賑わう一角に鍛冶屋の看板が見えてきた。

扉を開けると、鉄を打つ甲高い音が響き渡り、熱気が二人を包み込む。


「いらっしゃい!」


豪快な声で迎えたのは、腕まくりをした屈強な男だった。

ごつごつとした手には煤がこびりつき、

背後の炉から赤々と炎が揺らめいている。


「冒険に耐えられる武器が欲しいんですけど…」


店主は二人の腰の木剣を見ると状況を察した。


「なるほど……ほら、こいつなんてどうだ?」


差し出されたのは、鋼の輝きを放つ剣。

重量はあるが、手に馴染む感触にアルトの胸が高鳴った。

リナには軽量の剣が勧められ、しなやかに振れるそれに彼女も目を輝かせた。

さらに二人は他の装備も選んだ。


「これなんてどうだろう、似合うかな……」


「似合うと思うよ! すっかり冒険者だね」


会計を済ませた時、店主がにやりと笑った。


「装備していくか?」


二人は声を揃えて答えた。


「「もちろん!」」


新たな剣と装備を身につけた瞬間、心の奥から力が湧き上がるような気がした。

次に訪れたのは、路地裏にある雑貨屋だった。

扉を開けると薬草や瓶詰めが棚に整然と並び、柔らかな木の香りが漂っていた。


「いらっしゃいませ」


振り向いた店主を見て、二人は思わず息を呑んだ。

尖った耳、翡翠のように澄んだ瞳、白銀の髪――。


「エルフ……!」


リナが小さく呟く。

エルフは伝説のように語られる種族で、

この街で見ることができるとは思ってもいなかった。


「珍しいかい?」


店主は微笑む。


「僕らは滅多に人前に姿を見せないけど、

 実際にはどこかの森に集落を作って暮らしているんだよ」


「どこに行けば会えるんだ?」


アルトが身を乗り出すと、エルフは肩をすくめた。


「それは自分で探すことだ。それが冒険の醍醐味だからね」


その言葉に二人は胸を熱くし、強く頷いた。

雑貨を買い揃え、店を出ようとした時、エルフは小さな石を差し出した。

透明に近い青い光を帯びた、不思議な輝きを持つ石だった。


「これはおまけだ。いつか役に立つかもしれない」


礼を言い、二人は店を後にした。

街の夕暮れは赤く染まり、鐘の音が響いている。


「しばらくは、この街を拠点にしようか」


「うん、装備も揃ったし、まずはここで経験を積まなきゃね」


新しい武器を携えた二人の瞳は、未来への期待に輝いていた。

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