Episode.31 刺客
地下深く、岩盤を削って作られた黒狼の牙の本拠地。
天井から垂れる鍾乳石の影が、松明の炎に揺らめき、
まるで獣の牙のように床へと落ちていた。
玉座に腰掛ける男――ガルフ・ガルシア。
その手元に浮かぶのは、幹部たちが持つ魔力量を感知する魔道具《魂脈計》。
複数の光点の中で、ひとつだけが異様に弱く、今にも消えそうに明滅している。
「……ヴィオラ、か」
低く呟いた声には、温度がなかった。
「魔力、ほとんど残ってねぇな」
壁にもたれかかる金髪の男が、舌打ち混じりに言う。
――カイル・ヴォルフェン。
黒狼の牙の中核を担う武闘派幹部だ。
「作戦屋が前に出るからだ。
頭使ってりゃ負けねぇ女だろ、あいつは」
「……はぁ……」
忍者装束の女が、短くため息を吐いた。
「……無理……した……最古参……だから……」
それ以上の言葉はない。
興味もなさそうに視線を逸らす。
フードを深く被った男は、相変わらず沈黙を保っている。
「ヴィオラを倒したのは、どんな連中か分かるのか?」
カイルが問いかける。
ガルフはため息まじりに言った。
「この前写し絵を見せただろう。
奴らだ……。さっき報告が入った」
そしてガルフは魔道具から視線を離し、ゆっくりと立ち上がった。
「剣士の女が要だ。冷静で、判断が早い。
武の男は前線で暴れるが、統制は取れている。
魔法の女は未熟だが、土壇場で伸びる可能性がある」
忍者の女が、ほんの一瞬だけ眉を動かした。
「……めんどくさい……」
「ヴィオラを退けた。それだけで、十分警戒は必要だ」
ガルフの声は淡々としているが、
“駒” ではなく、“敵” として認識した響きがあった。
「あいつら……なかなかやるじゃねぇか。
……じゃあ、どうする」
カイルが笑う。
「俺が行くか?」
ガルフは一瞬、沈黙した。
そして、迷いなく答える。
「そうだな...、行け」
その言葉に、カイルの笑みが深くなる。
「俺がぶちのめしていいのか?」
「殺すな」
即答だった。
その場の空気が、わずかに揺れる。
「可能なら――生きたまま連れてこい」
忍者の女が、小さく首を傾げる。
「……珍しい……」
カイルが目を細める。
「へぇ……。随分と甘ぇこと言うじゃねぇか」
「……興味がある」
ガルフはそう言い切った。
「ヴィオラを超えた相手だ。
戦力としても、情報としても、見極める」
カイルは肩をすくめる。
「……了解。だがよ、抵抗したら――」
「その時は、折ればいい」
冷酷な声だった。
「心でも、誇りでもいい。
もしそれで使えなくなったら、捨てるさ」
忍者の女が、ぼそりと呟く。
「……カイル……向いてる……」
フードの男は、何も言わない。
だが、その奥で、微かに魔力がうねった。
ガルフは再び玉座に腰を下ろす。
その瞳には、情も憐れみもない。
ただ――獲物を見据える首領の目だけがあった。




