Episode.23 海賊の戦い
雷鳴が轟き、強風が吹き荒ぶ夜の港は、炎と悲鳴に満ちていた。
だが、その混乱の中心に、ひときわ鮮烈な光景があった。
――剣閃、拳、魔法、そして魔弾。
「どけぇぇぇ!!」
ライガの咆哮とともに、海賊の一人が宙を舞う。
踏み込み、腰を落とし、全身の力を一点に集めた正拳突き――
“六道体技”の基本にして極意。
防御ごと骨を砕く一撃だった。
「ひぃっ……!」
別の海賊が背後から斬りかかろうとした瞬間、足元が凍りつく。
「動くと滑って転びますよぉ〜?」
リリシアが涙目のまま、しかし確実に魔力を制御していた。
氷結の特性を活かした広範囲制圧。
逃げ場を奪われた海賊たちは、次々と転倒していく。
「今ですぅ〜!」
そこへ、銃声にも似た乾いた音が連続して響いた。
――パン、パン、パン!
ゼインの魔導銃から放たれた魔力弾が、
正確に海賊たちの武器を撃ち抜く。
実弾ではない。
だが、魔力を凝縮したその弾丸は、鉄をも歪ませる。
「ほらよ。次は膝だ」
クレイジーな笑みを浮かべながら、ゼインは容赦がなかった。
そして――
「はあっ!」
ミリアの剣が、夜を裂く。
無駄のない一歩。風を読む踏み込み。
魔装で強化された身体能力が、海賊の剣を弾き、懐へと滑り込む。
「ぐっ……!」
海賊は倒れ、街で暴れていた連中は、
次々と無力化されていった。
「……よし。街の方は、あらかた片付いたね」
ミリアが剣を収める。
港には、拘束された海賊たちと、
安堵に包まれた住民たちが残されていた。
「じゃあ、俺とミリアで船に行くか」
ゼインが肩を鳴らす。
「船長を抑えないと、話が進まねぇ」
「えっ……じゃあ私たちは?」
不安そうなリリシアに、ライガが親指を立てる。
「俺たちはここに残って、残党狩りだ。
大丈夫だろ?」
「だ、大丈夫ですぅ……多分……」
震えながらも、リリシアは頷いた。
「気をつけて」
「そっちもな」
ミリアは一瞬だけ振り返り、
ゼインとともに海賊船へと向かった。
甲板に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
静かだ。だが、張り詰めている。
「ようこそ、俺の船へ」
低く、よく通る声。
船の中央に立っていたのは、長身の男だった。
漆黒のコートに、金髪。
腰には剣、そしてもう片方の手には銃。
「俺はキャプテン・グレイヴ。
この船と、こいつらの命を預かってる男だ」
「街を荒らす趣味はよくないね」
ミリアは剣を構える。
「大人しく投降して。無駄な血は流したくない」
「はっ」
グレイヴは嗤った。
「海賊に“投降”を勧めるたぁ、いい度胸だ」
次の瞬間――
銃声。
ミリアは反射的に身体を捻り、頬をかすめた弾丸を躱す。
間髪入れず、グレイヴは剣を抜き、間合いを詰めてきた。
「――っ!」
剣と剣がぶつかる。火花が散る。
剣閃の隙間から銃口が光った。
ズガァン――!!
ミリアは紙一重で銃弾を回避する。
速い。銃撃から即座に剣へ。剣から銃へ。
攻撃の切り替えが異常なほど滑らかだった。
「くっ……!」
息をつく暇がない。
斬撃、銃撃、斬撃。まるで嵐だ。
「どうした!? さっきまでの威勢は!」
「……強いね」
ミリアは歯を食いしばる。
(でも――読める)
呼吸、重心、癖。
父と母に叩き込まれた剣の理が、
次第に相手を解析していく。
次の銃撃。ミリアはあえて一歩踏み込んだ。
「なに――!?」
弾丸が空を切り、ミリアの剣がグレイヴの肩を裂く。
「ぐっ……!」
そのまま連撃。最後は、柄で顎を打ち抜いた。
グレイヴは膝をつき、剣を落とす。
「……見事だ」
苦笑しながら、彼は懐から小さな刃を取り出した。
「だがな。俺は誰かの犬になるくらいなら、ここで終わる」
「やめて!」
ミリアが叫ぶ。
「知らねぇよ」
刃が喉元に当てられる。
その時。
「――そこまでだ、キャプテン」
軽い声とともに、ゼインが前に出た。
「交渉なら、俺に任せな」
グレイヴは目を細める。
「……何者だ、お前」
「天才ギャンブラーにして、クレイジーな交渉人さ」
ゼインは不敵に笑った。
「死ぬより、面白い選択肢があるぜ?
乗るか?キャプテン・グレイヴ」
夜の海賊船に、緊張が走る。




