Episode.22 港町
夕暮れに染まる水平線を背に、港町『サザンポート』は今日も喧騒に包まれていた。
潮の香りと魚の生臭さ、行き交う船乗りたちの荒い笑い声。
賭博の街とは違うが、ここにもまた、命を賭けて生きる者たちの熱が渦巻いている。
「この街で船を調達して海に出る必要があるね」
ミリアは港を見渡しながら静かに言った。
長い黒髪が潮風に靡く。
「だがなぁ……」
ゼインが頭の後ろで手を組み、苦々しく笑う。
「船を持ってるのは漁師か商人だ。
どいつもこいつも、船は命そのものだ。
見ず知らずの旅人に『海の底まで行きたいんで貸してくれ』
なんて言われて、はいそうですか、ってわけがねぇ」
「だよな」
ライガも腕を組み、港に並ぶ船を眺める。
「仮に貸してくれたとしても、俺たちに航海術はねぇ。
荒れた海に出て、船が沈んだらそれで終わりだ」
「ひ、ひぇぇ……」
リリシアの顔が一気に青ざめた。
「やっぱり危険な場所なんですかぁ~!?
わ、私……お留守番してちゃダメですかぁ~!?」
今にも泣き出しそうな声で訴える。
「無理だな」
即答したのはライガだった。
「俺たちは黒狼の牙に目を付けられてる。
一人で街に残る方がよっぽど危険だ
あいつらは世界中に構成員がいるって話だからな……」
「……そ、そうでしたぁ~!!」
リリシアははっとして、今度は逆に身を乗り出す。
「じゃあ早く海に逃げましょうよぉ~!
もう今すぐにでも~!!」
「落ち着いて、リリシア」
ミリアがそっと頭に手を置く。
「大丈夫。私が守るから」
その一言に、リリシアの目が潤んだ。
「ふぇぇ……ミリアさん……
私、一生ついていきますぅ~……」
「……一生は重いかも」
若干引き気味に視線を逸らすミリアに、ゼインが肩を揺らして笑った。
「とりあえずだ」
ゼインは真面目な顔に戻る。
「情報を集めよう。漁が盛んな街だ。
造船所や裏の仕事をしてる連中もいるはずだ」
三人は頷き、それぞれに港町を歩き回った。
――そして夜。
酒場、造船所、漁師小屋。
あらゆる場所を回ったが、結果は芳しくなかった。
船を貸してくれる者はいない。
新しく船を造るには、金が圧倒的に足りない。
「……八方塞がりだね」
街の中央広場で、ミリアは小さくため息をついた。
「しばらくこの街で稼ぐしかないかな」
「ちくしょう」
ゼインはベンチに腰掛け、舌打ちする。
「こんなことなら、
カジノで限界まで荒らしてくりゃよかったぜ」
「後悔先に立たず、だな」
ライガが苦笑した、その時だった。
――ドガァン!!
空気を引き裂くような爆発音が、街全体を震わせた。
「ひぃぃぃ!!」
リリシアが跳び上がる。
「き、来ましたか!?
黒狼の牙が来たんですね!?
ついに殺されるんですね私たちぃ~!!」
「落ち着け!」
ライガが肩を掴む。
「音はもっと港の方だ。
敵襲なら、こんな派手な真似はしねぇ」
ミリアもすでに剣を手にしていた。
「様子を見に行こう。何が起きているか確認する必要がある」
四人は音のした方角へ走った。
――港。
そこは、まるで戦場だった。
人々は悲鳴を上げて逃げ惑い、
荷物が散乱し、建物の一部が崩れている。
そして――
「……海賊船」
ミリアが息を呑む。
海岸に横付けされた一隻の大型船。
黒地に赤い紋章が描かれた海賊旗が、
夜風にはためいていた。
「おいおい……」
ゼインが目を細める。
「冗談じゃねぇぞ。
ありゃ、かなりの武装船だ」
甲板には屈強な男たちが立ち、
街の人間を睨みつけながら笑っている。
「金目のもんを出しなぁ!!」
「抵抗すんじゃねぇぞ!!」
銃声が夜空に響き、悲鳴が重なる。
「……最悪のタイミングね」
ミリアは歯を噛みしめた。
「どうする? 関わるか?」
ライガが問いかける。
「関わらなきゃ、街は荒らされ放題。
放っておくわけにはいかないでしょ」
しかしゼインが口を挟む。
「おいおい、よく考えろよ?
向こうは海賊。それも、この規模……」
「……でも」
リリシアが、小さな声で言った。
「もし……もし、あの船……使えたら……」
その一言に、三人の視線が集まる。
ミリアは、海賊船を見据えた。
「……確かに」
武装、航海能力、船員。
海に出るには、これ以上ない船。
「つまり……」
ライガが不敵に笑う。
「奪えばいい、ってことか」
ゼインはニヤリと口角を上げた。
「なるほどな。クレイジーな案だが……嫌いじゃねぇ」
ミリアは一歩前に出る。
「決まりだね。――海賊退治よ」
夜の港に、決意の炎が灯った。
港町に風が吹き荒び、厚い雨雲が雷鳴を轟かせながらこちらに向かってくる。
嵐の予感が胸をよぎる――




