Episode.19 賭博の街
ミリアたちは、賭博の街『ヴァルディオラ』に足を踏み入れていた。
昼間だというのに街は異様な熱気に包まれ、
通りを行き交う人々の目はどこか落ち着きがなく、
金と欲望の匂いが漂っている。
「......なんか、すげぇ賑やかな街だな」
ライガが周囲を見回しながら呟いた。
「賑やかというか......目が血走ってて怖いですぅ......」
リリシアはミリアの背後に半分隠れながら、
街の空気に圧倒されている。
「まずは情報収集だね。カジノに行ってみよう」
ミリアは迷いなく言い、街の中心にそびえる巨大な建物へ向かった。
煌びやかな装飾、絶え間なく響く歓声と罵声。
そこが、ヴァルディオラ最大のカジノだった。
――と、
その入口に差しかかった瞬間。
「なんだぁ? ここはガキどもの来る場所じゃねぇぞ?」
背後から投げつけられたような声に、三人は振り向いた。
そこにいたのは、顎髭を無造作に伸ばし、口元にタバコを咥えた男。
軽薄そうな笑みを浮かべ、腰には見慣れぬ形状の魔導銃を下げている。
「別にいいだろうが」
ライガが即座に噛みつく。
男は肩をすくめた。
「構わねぇが、素人が手ぇ出すと酷い目に遭うぜ?」
ミリアは一歩前に出て、冷静に男を見据える。
「......確かに、何も知らずに賭けるのは無謀だね」
「だろ?」
男は満足そうに頷き、手で追い払う仕草をした。
「忠告はした。邪魔だからどっか行きな」
――だが、ミリアは引かなかった。
「......あなた、ギャンブルに詳しそうだね。
私たちに教えてもらえない?」
男は一瞬きょとんとしたあと、鼻で笑った。
「俺に何のメリットがある?」
「それは……」
ミリアは言葉に詰まる。
「じゃあこの話は無しだな」
男はあっさり背を向けかけた。
それを止めるかのように、リリシアが声を張り上げた。
「わ、分かりましたぁ!それなら何でも言うこと聞きますよぉ~!
ライガさんが!しばらくレンタルしますぅ!」
「はぁ!?」
ライガが思わず叫ぶ。
男はぽかんとした顔でリリシアを見る。
「......話にならねぇな」
だが次の瞬間、ふと興味深そうに首を傾げた。
「それにしても、なんでそこまでして賭け事なんかしたい?」
ミリアは一瞬逡巡し――そして、全てを話した。
ザンガ討伐のこと。エリクサーの素材を集めていること。
海底へ行くための魔道具が、カジノの景品にあるという噂。
男は黙って聞き終えると、顎髭を撫でながら考え込んだ。
「......なるほどねぇ。そう言うことか……」
やがて、にやりと笑う。
「気が変わった。お前ら、面白ぇ」
「......え?」
三人が声を揃える。
「協力してやるよ」
男はタバコを地面に落とし、踏み消した。
「相当、ライガさんと一緒にいるのが嫌だったんですかねぇ~」
リリシアが小声で言う。
「そんなわけあるか!」
即座にライガが突っ込む。
男は豪快に笑った。
「よし、それじゃあ行くぞ!
お前らに俺の実力、見せてやらぁ!」
そう言って、男はカジノの中へと歩き出した。
ミリアたちは顔を見合わせ、覚悟を決めてその背を追う。
――カジノの喧騒の中で、男は振り返り、ふと思い出したように言った。
「そういや名乗ってなかったな」
不敵な笑みを浮かべる。
「俺の名は――ゼイン・ヴァロウズ。
この街じゃ、“クレイジー・ギャンブラー”って呼ばれてる」
金と狂気の街で、運命を賭けた新たな歯車が今、回り始めた。




