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Episode.17 盗賊団

大賢者の記録が消え、魔法書庫は再び静寂に包まれた。

長老は棚の奥から細長い箱を取り出す。

蓋を開けると、淡い黄金色に輝く細い葉が一枚、

ゆらりと光を纏っていた。


「――世界樹の葉じゃ。

 エリクサーを求めるなら、これが必須となろう」


「やった......! これで材料のひとつが揃った!」


ミリアは目を輝かせる。

横でリリシアは、へにゃりとした声を漏らした。


「ミ、ミリアさぁん......わたし、

 もう限界ですぅ...... はやく休ませてくださぁい......」


長老は、くすりと目尻を下げる。


「ふむ......ならば、

 今夜はエルフの宿に泊まっていくとよい。

 外来の者にも開いておる。

 客人としての待遇をさせてもらおう」


ライガが伸びをしながら賛成した。


「そうだな。

 今日は頭も体も使ったし、休むにはちょうどいい」


こうして、三人はエルフの宿で一晩を過ごすことになった。


夜。

森を渡る風が優しく枝葉を揺らし、静かに夜が更けていく。

――ミリアは、微かな騒めきで目を覚ました。


(......なんだろう? 外が騒がしい......?)


窓を開けると、複数の足音が走り抜けていく気配。

慌てて外へ出ると、セレスが息を切らせながら

駆けていくところだった。


「セレス!何があったの?」


セレスは振り返ると、眉を険しく寄せた。


「エルフの娘が......攫われたの!

 今から救出隊を出すところよ!」


「攫われた......!?」


その声に反応し、

ライガとリリシアも宿から飛び出してきた。


「ミリア、何が――」


「な、なにか大変なことになってませんかぁ!?」


ミリアは二人へ振り向き、


「エルフの子が攫われたって。行こう、私たちも!」


「当然だろ!」


「うぅ......こ、怖いけど......

 ミリアさんのそばなら......!」


三人はセレスと共に長老のもとへ戻った。

長老は重々しい顔で彼らを見据える。


「敵は盗賊の一団――

 エルフの娘を人質に取るとは、浅ましい連中よ」


長老の背後に立つ戦士たちが、道具や武具を整える。


「そなたらにも同行してほしい。

 外の者の力......儂は信じておる」


「任せてください。必ず取り返します!」


長老は頷き、同行するエルフの斥候たちを彼女らに託した。

こうして、救出部隊は夜の森へと踏み出した。


斥候が地面を調べながら進む。


「足跡は四つ......子供をひきずった跡もある。間違いない」


折れた木の枝の角度、蜘蛛の巣が破れた位置、

踏み固められた葉の色――

小さな痕跡を読み解き、盗賊の進路を精確に追う。

ライガが感心してつぶやく。


「すげぇな......森そのものが地図に見えるレベルだな」


「一見静かな森の中でも、得られる情報はたくさんあるわ」


セレスが小声で答える。

しばらく進むと、斥候が手を挙げて制止した。


「......罠だ。気を付けろ」


見れば、木の根元に巧妙に仕掛けられたワイヤー。

その先には、落とし穴や飛び槍の仕掛けが潜んでいる。


「追跡に気づかれたみたいだね......」


ミリアが低く呟いた、

その時――


ヒュンッ!


闇を裂く鋭い音。


「えっ――きゃぁああああ!!?」


リリシアの悲鳴。

鋭い光が彼女の胸元めがけて飛んでくる。

次の瞬間――


ガシッ!


ミリアが手を伸ばし、

飛んできたナイフを素手で受け止めた。


「大丈夫!? リリシア!」


「ひぃぃぃぃいいいっ!!

 し、死ぬかと思いましたぁぁ!!」


リリシアは涙目でミリアの背中に隠れた。

森の奥からくぐもった笑い声が響く。


「へぇ......素手でナイフを止めるとは、やるじゃねぇか」


月明かりに照らされ、四人の男たちが木陰から姿を現す。

薄汚れた黒装束、刃物、口元には下卑た笑い。

その視線は、ミリア達ではなく――

エルフの少女たちへ。


「エルフは高く売れるんだよなぁ......

 お前ら二人も、いい値が付きそうだ」


セレスの顔が青ざめる。

ミリアは一歩前へ進み、腰の剣を抜いた。

風が、彼女の髪を揺らす。


「――そうはさせないわ」


剣先を盗賊たちへ向け、鋭く睨み据えた。

夜の森に、緊張した空気が走る。

盗賊たちの嘲笑が途切れた瞬間、

ミリアとライガが同時に踏み込み、森の地面が跳ねた。


「っは!」


「おらぁッ!」


一閃。

ライガの拳とミリアの剣が、ほぼ同時に盗賊の顎と腹を撃ち抜く。

二人の盗賊は言葉を発する暇もなく吹っ飛び、木にぶつかって意識を失った。

突然の瞬殺に、残った盗賊のリーダーは目を剥いた。


「ば、バカな......! 一瞬で......!」


ミリアが剣先を向けて言い放つ。


「拍子抜けだね...」


リーダーの顔から色が消える。


「ま、ま、待ってくれ! 本当に悪かった!

 命令されてるだけなんだ!命だけは――」


言いながら、彼はゆっくりと腰の袋へ手を伸ばした。


「これならどうかなッ!」


ボンッ!!


足元で煙玉が炸裂し、濃い白煙が広がる。


「しまった――!」


ミリアは即座に後ろへ跳び、

エルフたちの前に立ちはだかって警戒態勢に入る。

煙が視界を覆い、索敵が効かない。


(まずい、この隙に逃げるつもり......!)


ミリアは剣を構え直し、集中して気配を探った。


――だが。

煙が風に流れ、次第に薄れていくと......

盗賊たちは、逃げるどころかその場で固まっていた。


「......は?」


よく見ると、

彼らの足元は広範囲に渡って分厚く氷漬けになっている。


「ひひっ......に、逃げる敵なら怖くないですぅ......!」


リリシアが小さく笑いながら手をプルプルさせていた。

彼女の周りには、霜の魔力が帯びた冷気が漂っている。

ライガが思わず吹き出した。


「おいおい、やるじゃねぇかリリシア!完璧に止めたな!」


「へへっ......ふふーん!もっと褒めてもいいんですよ?

 ライガさんを......わたしのしもべにしてあげても......?」


「ならねぇよ!!」


ライガが即ツッコミを入れ、場に妙な空気が流れる。

盗賊たちは動けずに歯をガチガチ鳴らしながら、観念したように情報を吐き出した。


盗賊たちを氷から解放して縛り上げ、ミリアたちは脅しをかける。


「攫ったエルフの子はどこ?」


「ま、待ってくれ!言う!言うから......!

 お、俺たちのアジトにいる......!森の西側、洞窟だ!」


すぐに救出へ向かう。

洞窟に踏み込み、ミリアたちはエルフの娘を無傷で救い出した。

怯えていた娘は、セレスに抱きつき泣きじゃくる。


「もう大丈夫......もう誰にも触れさせない」


そのままエルフの里へ戻り、救出は無事に成功した。

盗賊たちはエルフの里の監獄に放り込まれ、そこからさらに尋問が続く。


捕らえた盗賊たちは震えながら口を開いた。


「聞いて驚くなよ?

 お、俺たちは......“黒狼の牙”の末端だ......!」


ミリアが眉を寄せる。


「黒狼の牙?」


「おいおい、知らねぇのか!?お前はどんだけ田舎から出てきたんだ!

 世界中に構成員を持つ、世界最強の盗賊団だ!!」


きょとんとするミリアとは違い、リリシアは震えていた。


「わ、私知ってますぅ。

 『その名を聞いたら命以外を全て差し出して逃げろ』と

 私の村では言われていましたぁ」


盗賊たちは続けた。


 「そういうこった!俺たちに手ぇ出したら......黒狼の牙が黙っちゃいねぇぞ......!

 お前ら全員、ただじゃ済まねぇ......!」


ミリアは冷たい目で見下ろした。


「心配しなくていい。

 ――あなたたちは全員、始末するから」


盗賊はニヤリと笑った。


「へっ......ムダだよ。

 もう一人いたんだよ......俺たちの仲間が。

 そいつが今ごろ――本部に報告しに行ってる」


ミリアが静かに目を細める。


「......つまりお仲間が復讐に来るってことね」


「そういうこった......!」


盗賊はニヤリと口角を歪めた。


「それに狙いはエルフじゃねぇ。オメーらだよ」


ミリアたちの眉がぴくりと動く。


「エルフの連中を狙ったのは、ただの“金”のためだが......

 オメーらは違う。俺たち黒狼の牙の邪魔をした......

  “報い”を受けてもらう」


ライガは拳を鳴らし、鼻で笑った。


「いいじゃねぇか......

 俺たち個人が黒狼の牙の標的に変わったってわけか」


盗賊は満足げに頷いた。


「そうだ......。黒狼の牙は執念深ぇ。

 森の外に出ようが、街にいようが、

 道を歩いていようが......どこまでも追ってくるぜ。

 油断してると背中から刺されるかもな」


リリシアは青ざめながらミリアの背中にぴったり張り付く。


「ひええええ~~! そんなの怖すぎますぅ......!

 旅路でいきなり刺されるとか......わたし死んじゃいますぅ!」


ミリアは盗賊を見下ろし、冷たく言い放った。


「......つまり私たちは、

 旅の途中で黒狼の牙に襲われることになるのね...」


「そういうこった......覚悟して、震えて道を歩くんだな......!

 特に幹部の連中は全員化け物揃いだ。勝ち目はねぇよ!」


ミリアは踵を返しながら、低く息を吐いた。


「震えるのはそっち。 来るなら――全員返り討ちにするだけ

 誰が来ようとね……。」


盗賊はその言葉に怯え、黙り込む。

ライガは肩を回す。


「まぁ、面倒だが......来るなら来いって感じだな。

 ゲリラ戦? 上等だ」


リリシアは泣きそうな声で叫ぶ。


「全然上等じゃないですぅ!!」


ミリアは苦笑しつつ仲間に向き直った。

こうして――

エルフと共に事件を解決したミリアたちは

次の目的地を目指すため、森を抜けることになる。

エリクサーの残りの素材を探すために――。

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