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Episode.16 大賢者の記録

魔法書庫の最奥――

古文書から解き放たれた光が空間いっぱいに広がり、

まるで異空間へ迷い込んだような重苦しい気配が漂い始めた。

長老が静かに告げる。


「これは......大賢者が遺した“封印の記録”。

 よく......目に焼き付けておくがよい」


映像が鮮明に形を成し、やがてそこに浮かび上がったのは――

ローブを纏い、伸びた白髪を風に揺らす老人。

その黒い瞳は、これから対峙する“災厄”に一点の迷いもない。

ミリアはゴクリと喉を鳴らす。

ライガも思わず身構える。

リリシアは――黒い霧の影を見た瞬間、震え出し、

そっとミリアの背中に隠れた。


「だ、大丈夫ですよね......ミリアさん......?」


ミリアはリリシアの手を握り、軽く頷く。


「これは記録。害はないわ......でも――」


その視線の先には、彼女たちの未来に立ちはだかる災厄。

映像がより鮮明になり、 ついにそれは姿を現した。

黒い霧を纏う巨躯―― オーガに似た輪郭を持ちながら、

その存在感は遥かに凶悪で、異質で、“敵”などという言葉では形容できない怪物。


ザンガ――。


ただ立っているだけで、

周囲の空気が歪み、 腐敗と死の気配が流れ込んでくる。


「......っ、これが......ザンガ......!」


ミリアは息を詰める。

ライガは拳を握り締めたまま動けない。

リリシアは恐怖に声すら出ない。

故郷を滅ぼした禍々しい影がフラッシュバックし、

涙をこぼしながらミリアの服を掴んだ。

映像の中で、大賢者が静かに腕を構える。

ザンガの動きは、その巨体とは裏腹に常軌を逸した速度だった。

巨大な斧が振り下ろされ――


ドオオオオン!!


地面が裂け、大地は地割れを起こし、

衝撃だけで周囲の木々が吹き飛ぶ。

斧を横薙ぎに振れば――

十本以上の大木がまとめて切り倒される。

ただの風圧だけで命が奪われ、黒い瘴気が草木を枯れさせていく。


「......あれ、避け続けるだけでも死ぬだろ......」


ライガは呆然と呟く。

大賢者はと言えば、冷静に魔法で牽制し、距離を取り続けている。

だが、その眼は一点を見つめていた。

そして――

大賢者は静かに呟いた。


『魔纏解放(まてんかいほう)――”魔境虚世(まきょうきょせい)”』


次の瞬間、空気が震えた。

大賢者の身体から溢れ出した闇属性の魔力が空間を染める。

闇属性の特性は”封印”と”隠蔽”。

大賢者の周囲は闇属性の魔纏解放により周囲の空間ごと曖昧になる。

ミリアは思わず息をのむ。


「......これが......魔纏解放......!」


リリシアは震えながらも見守る。


「す、すご......い......規模が違いますぅ......!」


ライガは膝を震わせていた。


「オーラってレベルじゃねぇぞ......!」


大賢者は目を閉じ、さらに深く集中する。

周囲の空間がぐにゃりと歪み、重力すら変形したような圧が満ちる。

長老が呟く。


「これは......“万物変換の秘術”。

 あらゆる生命、大地、木々......そこに含まれる魔素を

 己の魔力へと変換する、禁じられた術よ」


映像の大地が淡く光り、

無数の粒子が大賢者のもとへ吸い込まれていく。

ミリアは息を呑む。


「ここまでして......やっと......対等......?」


そして、大賢者が唱える。


「究極魔術(アルカナ・アーツ)――」


「――二重詠唱(デュアル・スペル)」


リリシアが驚愕し膝が震えている。


「と、とんでもない魔力の奔流ですぅ!!」


空中に、二つの巨大な雷属性の魔法陣が展開される。

まばゆい光があふれ、空間そのものが鳴動し、見る者の魂を震わせる。

そして――


「降廻雷(ふるみかづち)!!」


――放たれた二つの雷光がザンガの胸を貫いた。

黒い巨体が爆音と共に燃え上がる。

だがザンガは、 黒焦げになってもまだ立ち上がる。

ミリアは震える声で呟いた。


「......こんな攻撃を受けても、まだ......!」


しかし大賢者は引かない。

空気が再び震え、闇の魔法陣が現れる。


『究極魔術(アルカナ・アーツ)――』


闇属性――封印の奥義。

闇の極致を操る老人が、ザンガへ掌を向けた。


「無限地獄(むげんじごく)!!」


黒い光が奔り、

巨体が悲鳴と共に空間の裂け目へ封じ込められていく。

最後の咆哮をあげ、ザンガは闇に消えた。

そして――


映像は静かに、幕を閉じた。

光が消え、魔法書庫が元の静けさを取り戻す。

ミリアは拳を握りしめ、震える声で呟いた。


「......これが......大賢者......」


ライガは歯を食いしばる。


「......あれを倒したんじゃなくて、封印......?

 じゃあ......今出てきてるのは......」


リリシアは涙を零しながら、恐怖と同時に決意を宿した目で言う。


「ま、また......あんなのが......

 本気を出したら......もっと......」


長老は静かに頷く。


「大賢者でさえ倒せなんだ化物―― それがザンガよ」


ミリアは静かに息を吸い、小さく呟く。


「......私たちが......必ず倒す」


その決意を乗せるように、魔法書庫の光が静かに明滅した。

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