Episode.13 爆炎の魔導士
森の中心。
焦げた大地を踏みしめ、ローブの男がゆっくりとフードを外した。
赤い髪が炎のように揺れ、瞳は血のように赤く――
頬にはタトゥーが刻まれている。
「名乗るのも久しぶりだな。 俺はバラン。
“爆炎の魔導士”と呼ばれてる。今はただの犯罪者だがな...」
ミリアは剣を構えたまま表情を崩さない。
「ただの犯罪者が究極魔術なんて大魔法使えるのね」
バランは不気味に笑った。
「お前らを利用して
エルフの里に入ろうと思ったんだがな......
バレちまった以上、生かして帰すわけにいかねえだろ?」
ミリアは一歩踏み込む。
「そう簡単にはいかないから.....」
ミリアが勢いよく地を蹴る。
燕武――舞うように滑らかで重心を揺らす戦闘技法。
バランは迫り来るミリアを見ても微動だにせず――
「血の気が多いな。“爆ぜろ”!」
彼の周囲が連鎖的に爆発を起こす。
爆炎が渦巻き、近寄ることすら困難だ。
「くっ......!」
ミリアは爆風に吹き飛ばされ、地面を転がった。
口から血が垂れる。
(隙が......まったくない......!)
バランは指先に魔力を収束させながら歩み寄ってくる。
「終わりだ....」
彼の掌に、真紅の炎が凝縮されていく。
「――止まってくださいぃっ!
"葬氷の陣"!」
突如、バランの足元から白い霜が広がった。
大地が一瞬で凍り、バランの両足を拘束する。
「なに......っ!?」
ミリアが目を見開く
「リリシアっ!?」
さらにその隣では、ライガが拳を握りしめていた。
「よう、待たせたな爆炎野郎。
こっちもお前の相手する準備はできてるぜ」
バランが呆気をとられる間もなく、
ライガが踏み込み、低く叫ぶ。
「六道体技――“黒虎夜叉”!」
渾身の拳がバランの腹部に叩き込まれる。
体がくの字に折れ、血が飛び散った。
バランは数十メートル後ろへと吹き飛ばされ、
大木に激突し地面へ崩れ落ちる。
ライガは舌打ちしながら肩を回す。
「油断しすぎじゃねえのか、“爆炎の魔導士”さんよ!」
バランは口から血を吐きながら、
それでも狂気じみた笑みを浮かべた。
「......調子に乗るんじゃ――」
その瞬間。
――ヒュッ!
空を裂くような音と共に、矢がバランの頬を掠めた。
「ちっ......エルフどもか!」
周囲の木々の上に、数人のエルフ弓兵が現れていた。
「森を焦がす不届き者め! 覚悟しろ!」
バランは周囲を見渡し、舌打ちする。
「形勢が悪いな......ちょっと遊びすぎたか」
地面に右手を叩きつける。
「――爆ぜろッ!!」
轟音。
地面が爆発し、煙が巻き上がる。
煙が晴れたころには――
バランの姿はもうどこにもなかった。
「ミリアッ!!」
ライガとリリシアが駆け寄る。
ミリアはまだ立ってはいたが、息が荒い。
「二人とも......無事で良かった」
リリシアは涙目でミリアにしがみつく。
「もうっ......心配で倒れるかと思いましたよぉ~!」
ライガは安堵の息をつく。
「とんでもねえ化け物だったな......あいつ」
ミリアは頷きつつ、剣を収めた。
「エルフの里に着く前に気づいてよかった」
その時、背後から気配が近づいた。
「......あなたたちは、森を荒らした者とは違うのね?」
振り返ると、
ほかのエルフたちとは違う威厳を纏った女性が立っていた。
銀の長髪、蒼い瞳。
エルフ特有の装束を身にまとい、凛とした立ち姿。
「私はセレス。エルフの里の守護をしている」
静かながら、芯の通った声だった。
ミリアは姿勢を正し、挨拶をした。
「私はミリア。
訳あってエルフの里へ向かっている旅の者だよ」
セレスはミリアたちを一瞥し、
長い睫毛を伏せて静かに言った。
「事情を聞く必要がありそうね。里へ案内するわ。ついてきて」
こうして――
ミリアたちはついに、
エルフの里への門をくぐることになる。




