Episode.12 森に潜む影
森の奥深く。
木々が風にそよぎ、
鳥のさえずりだけが響く穏やかな道。
ミリアは歩きながら、ふっと微笑んだ。
「父さんと母さんが言ってた。
エルフの里へ行くには―― “風の吹く方向に進め”ってね。
たとえ戻るように感じても、風だけは裏切らないって」
リリシアは頷きつつも、半分は不安そうだった。
「風さんって......そんなに信用できるんですかぁ......?」
ライガは鼻で笑う。
「ミリアの親父さんとお袋さんが言うなら間違いねえよ。
あの二人、伝説級の冒険者だろ?」
ミリアは照れたように頬をかく。
「......まぁ、昔はね」
そんな温かい空気の中――
ライガの表情が急に変わった。
「......おい、なんかいる」
低い声。緊張が走る。
ミリアもすぐに剣に手をかけた。
「確かに......さっきから視線を感じる」
「ひぃぃっ、なんで急に戦闘体制なんですかぁぁ~っ!?」
リリシアはミリアの背に隠れて震える。
次の瞬間。
――ズドォォォンッ!!
森の奥から巨大な火球が飛来し、三人の足元で爆発した。
爆風で木々が揺れる。火の粉が舞う。
「やべっ!」
ライガが後ろに跳び、
ミリアは身を翻して炎を避け、
リリシアは地面に飛び込むようにしてギリギリ逃れる。
炎の中から、一人のローブを纏った男がゆっくりと歩み出た。
「よく俺の気配に気づいたな」
フードで顔を隠しながら、気だるげに言う。
ライガは舌打ちする。
「さっきのはな、バレバレすぎんだよ」
男は薄く笑った。
「ほう......口が達者だな。試してやる」
ローブの男は手を掲げ、詠唱もなしに爆発を発生させた。
森のあちこちが爆ぜ、近づけない。
「なっ......魔法の発動が速い!」
ミリアが眉をひそめる。
「ちょこまかと......イラつくな」
男の口調が少し荒くなる。
そして――
「……面倒だ。ここ一帯、灰にしてやる」
ローブの奥から覗いた口元が歪み、男がゆっくりと魔法名を告げる。
「――究極魔術」
空が赤く輝き、
巨大な魔法陣が頭上に出現した。
ミリアは息を呑む。
「アルカナ・アーツ......!? まさか......爆炎の魔導士......!」
「――真紅の爆撃」
嵐のような熱気が森全体を包む。
次の瞬間――世界が光に呑まれた。
――ドゴォォォォォン!!!
森が爆発し、周囲の木々が薙ぎ倒される。
大地が震え、空気が灼けた。
ミリアは全力の回避で爆心から飛び出したが、
爆風に巻き込まれ、数十メートル吹っ飛ぶ。
「ぐっ......!」
地面を転がり、土煙が舞った。
一方その頃ライガは――
「リリシア!! 掴まれ!!」
リリシアを抱きかかえたまま爆発から跳んだ。
だがリリシアを守った分、着地が一瞬遅れ、
爆炎がライガの左半身を襲う。
「ぐああッ!!」
皮膚が焼け、煙が上がった。
「ら、ライガさん!!」
リリシアが叫ぶ。
ライガはすぐさま腰のポーチからポーションを取り出し、躊躇なく一瓶飲み干した。
ジリジリと皮膚が再生し、痛みが引いていく。
だが――ローブの男は追撃の手を緩めない。
「チッ......まだ生きてるか。なら――」
男が再び炎を構えたその瞬間。
「させません!!」
リリシアが震える手を上げ、闇の魔力を放った。
黒い霧が二人を覆い、姿が掻き消える。
男は舌を打つ。
「闇魔法......? チッ、厄介な…
あいつ以外に闇魔法の使い手が現代に存在していたとは……」
吹っ飛ばされたミリアは、
土埃の中から立ち上がっていた。
肩で息をしながらも、瞳には強烈な光が宿っている。
焦げた服の上から手で埃を払う。
「今のが究極魔術.....、とんでもない威力....」
ローブの男が爆炎を纏いながらミリアを見る。
「バカ言うな。だいぶ威力を抑えたほうだ…。
まだ立つとはな......見縊っていた。」
ミリアは剣を構え、静かに言う。
「ここからは......私が相手よ」
森の中心で、闘気がぶつかる――。




