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Episode.104 三日後

帝国騎士団の会議は続き、そこからいくつもの案が出た。

偽の救援要請、補給路への攻撃、複数地点への陽動。

偽情報を意図的に流す方法。

しかし――。


「……決め手に欠けるな」


ギルバートが腕を組む。


「黒狼の牙の幹部が、こちらの想定通りに動く保証がない」


「そもそも相手の性格が分からなければ誘導しようがない」


シャルロットも眉を寄せる。


「それなら」


ミリアが手を挙げた。


「私たちが知ってること、全部話そうか?」


「頼む」


「まず……カイル」


ライガの表情が変わる。


「多分だけど、戦闘が始まったら――最初に出てくる幹部はカイルだと思う」


「なぜそう思う?」


ギルバートが尋ねる。

ミリアはライガを指差した。


「ライガのお兄さんだから」


「…………」


全員がライガを見る。

ライガも全員を見る。


「…………」


数秒、隊長たちが一斉に頷いた。


「なるほど」


「確かに」


「それなら出てきそうっスね」


「待て待て待て!」


ライガが机を叩いた。


「何でそれだけで全員納得してんだよ!」


「だって……」


ミリアが困った顔をする。


「お兄さんでしょ?」


「理由になってねぇ!」


「ライガさんのお兄さんですからぁ」


「リリシアまで乗っかんな!」


ゼインが肩を竦める。


「兄弟ってのは面倒だからな」


「お前まで!」


ひとしきり騒いだ後、ライガは表情を変えた。


「……団長」


「なんだ」


「カイルは――俺にやらせてくれ」


会議室の空気が変わった。


「…………」


ギルバートはライガを見る。


「理由は?」


「俺と兄貴の問題だ」


「却下だ」


即答だった。


「……っ!」


「お前たち兄弟の間に何があったのか、私は知らん」


ギルバートの声は冷静だった。


「だがこれは決闘ではない」


ライガが拳を握る。


「今回の戦いは――大袈裟ではなく、世界の命運が懸かっている」


大元の結晶が破壊されれば、世界各地で魔物が召喚される。


「個人的な因縁を優先することは許可できん」


「…………」


ライガは反論しなかった。

しばらく黙り――。


「……分かった」


拳を開く。


「ならせめて……」


ギルバートを見る。


「カイルを討つ部隊に、俺を入れてくれ!」


「…………」


「それなら文句ねぇだろ!」


ギルバートは数秒だけ考える。


「ああ」


頷いた。


「それなら許可する」


「……ありがとよ」


ライガは椅子へ深く座った。


「次はアヤメ」


ミリアが続ける。


「強いけど……」


「けど?」


「ものすごく気分屋かな……」


「……は?」


「口癖が『めんどくさい』なの」


シャルロットが眉を寄せる。


「本当に幹部なのか?」


「めちゃくちゃ強いよ……。多分、ガルフの次に強いのかも……」


ミリアは即答した。


「ただ、ガルフから直接命令されない限り、自分から積極的に動くタイプじゃないと思う」


「ならば、こちらから刺激しない限り後手に回る可能性があるか」


「うん」


「利用できるかもしれんな……」


ギルバートが資料へ書き込む。


「そして――バラン」


ミリアの表情が少し険しくなる。


「この人は絶対に魔物結晶から遠ざけた方がいい」


「爆炎魔法か」


「うん」


風の丘での戦いを思い出す。

地面を丸ごと吹き飛ばした爆発、あれが大元の結晶の近くで放たれれば――。


「本人に壊すつもりがなくても、戦ってる途中で結晶が割れる可能性がある」


「確かに危険だな」


「だから……」


ミリアは少し考える。


「私が引きつける」


「お前が?」


「前に戦った時、私が勝ったから」


正確にはガルフが介入して撤退したが、少なくともバランはミリアとの決着に強い執着を見せていた。


「たぶん……向こうも、私ともう一度戦いたいと思ってるんじゃないかな」


ミリアは苦笑する。


「可能性は高いな」


ゼインが同意する。

そしてライガも。


「戦闘狂ってのは負けた相手を放っとけないもんだ」


「お前が言うと説得力あるな……」


「最後に」


シャルロットが二枚の資料を並べた。

ヴィオラ、そして――ガルフ。


「この二人、おそらく一緒にいるだろうな」


ギルバートも頷く。


「ヴィオラは参謀格。今回の魔物結晶を開発した張本人でもある。中枢となる結晶の管理に関わっている可能性も高い」


「ガルフの近くにいると考えるのが自然だね」


「二人を分断できれば理想だが……」


「無理に狙わない方がいい」


ゼインが言った。


「他の幹部を引き離せただけでも十分だ。欲張って全部思い通りに動かそうとすると、逆にこっちが嵌められる」


「同感だ」


ギルバートが頷く。


「まずはカイル、アヤメ、バランを本隊から切り離す」


指が地図の中央へ。


「残ったヴィオラとガルフについては、その時点の戦況を見て判断する」


そこからさらに軍議は続いた。

幹部たちの戦闘能力。

確認されている構成員。

落日の砦までの経路。

帝国騎士団の配置。

負傷者の搬送経路。

撤退の合図。

もし大元の結晶を発見した場合の対処。

ミリアたちも、自分たちがこれまで黒狼の牙と戦って得た情報を可能な限り共有した。

そして――長い軍議の末、作戦の骨格が完成した。


「――以上だ」


ギルバートが全員を見渡した。

窓の外は、既に夕暮れに染まり始めている。


「決行は――三日後」


隊長たちの顔が引き締まった。


「それまでに各隊は装備を整えろ。魔法部隊は魔導具の準備。特攻騎兵部隊は落日の砦周辺の退路を確認。遊撃部隊は周辺地域の偵察」


次々と指示を出していく。


「潜入班は作戦決行前に先行する。得た情報を基に、最終的な配置を決定する」


「「「了解!!」」」


騎士たちの声が重なる。

ギルバートはミリアたちを見る。


「お前たちは、この三日間は本部に滞在しろ」


「いいの?」


「客室を用意させる。まずは休め」


意外な言葉だった。


「戦いの前に余計な疲労を残す必要はない。鍛錬は構わんが、無茶はするな」


「兄上がそれを言うのか」


シャルロットが呟く。


「どういう意味だ」


「そのままの意味だ」


ギルバートは無視した。


「三日後――我々は落日の砦へ向かう」


その声が大会議室へ響く。

騎士たちの視線が、一斉に団長へ集まる。

かつて帝国騎士団が敗れた場所。

父と母が死んだ場所。

無敗の帝国という名が、初めて地に落ちた場所。

そこへ、今度は自分たちが向かう。


「相手は世界最強の盗賊団だ」


誰も目を逸らさない。


「ガルフ・ガルシアを侮るな。黒狼の牙を侮るな。奴らは強い!」


ギルバートは、あえてそう言った。


「だが――」


拳を机へ置く。


「我々も、あの日の帝国騎士団ではない!」


シャルロットが顔を上げる。

ガレッタが大盾を握る。

レイヴァンの軽い笑みが消える。

各部隊長の瞳に戦意が灯っていく。


「かつての帝国騎士団が敗れた場所で」


ギルバートの声が低く、強く響く。


「今度は我々が――勝つ!!」


ミリアは静かにその言葉を聞いていた。

これは帝国騎士団にとって、ただの討伐任務ではない。

過去との決着。

そして自分たちにとっても、幾度となく旅路を阻んできた黒狼の牙との戦いが、ついに大きく動き出そうとしている。


「三日後――作戦決行だ!」


「「「――応ッ!!」」」


地鳴りのような声が、大会議室を震わせた。

ミリアは腰に差した剣へ、そっと手を添える。

瞳には静かな決意が宿る。


(今度は――こっちから行く)


決戦まで――あと三日。

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